グローバルコンピテンシーの数値化で人財を可視化し学校や企業のポテンシャルを変容させる



グローバル人材という言葉は、グローバル社会が現実化し、教育界は勿論、社会のあらゆるところで聞かれるようになってきました。ところが、その定義はそれぞれバラバラで、評価法も多様です。そこで従来、企業などにおいてはその人財評価にコミュニケーションのツールとしての「語学力」を指標としてきました。これなら点数そのものを数値化できるのでグローバル人財を選び出せると考えるわけです。

しかし、ご存じのように語学力は要素の一つではありますが、それでグローバル人材かというと、そうとは言えないことは明らかです。つまり、語学を活用するコンピテンシー(行動特性)が必用になってきます。たとえば語学力が高くても、相手とのコミュニケーションが取れなければ仕事は進んでいきません。また、新たに創造的な自分の主張を主体的に発表して、相手の主張との課題を解決していく力が必用となってくるでしょう。

2006年2月に、厚生労働省は「社会人基礎力」を定義し3つの能力と12の能力要素

前に踏み出す力(主体性、働きかけ力、実行力)
考え抜く力(課題発見力、計画力、創造力)
チームで働く力(発信力、傾聴力、柔軟性、状況把握力、規律性、ストレスコントロール力)

経済産業省のグローバル人材像
2010年4月 産学人材育成パートナーシップ グローバル人材育成委員会 報告書

グローバル化が進展している世界の中で、主体的に物事を考え、多様なバ ックグラウンドをもつ同僚、取引先、顧客等に自分の考えを分かりやすく伝 え、文化的・歴史的なバックグラウンドに由来する価値観や特性の差異を乗 り越えて、相手の立場に立って互いを理解し、更にはそうした差異からそれ ぞれの強みを引き出して活用し、相乗効果を生み出して、新しい価値を生み 出すことができる人材。
ⅰ)「異文化の差」が存在するということを認識 して行動すること
ⅱ)「異文化の差」を「良い・悪い」と判断せず、興味・理解を示 し、柔軟に対応できること
ⅲ)「異文化の差」をもった多様な人々の中 で比較した場合の、自分を含めたそれぞれの強みを認識し、それらを引き出し て活用し、相乗効果を生み出して、新しい価値を生み出すこと

2012年6月に出された、国家戦略室のグローバル人材育成戦略(グローバル人材育成推進会議 審議まとめ)からは

要素Ⅰ:語学力・コミュニケーション能力
要素Ⅱ:主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感
要素Ⅲ:異文化に対する理解と日本人のアイデンティティー

と定義を発表してきました。

これらから、グローバルコンピテンシーを数値として表現するときに、単純な数値では表現できないことが理解できます。そこで、定義から共通点を探ってみました。それを3つの軸として考えました。

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グローバルプラスの各事象の特徴

「前に踏み出す力」いわゆる「グローバルリーダーシップ」が重要だと気づきます。要素として、主体性、働きかけ力、実行力、チャレンジ精神がかかわってきます。次に
「考え抜く力」あるいは「イノベーション力」は、それまでの考え方を融合し新しい発想を創造することができます。これには要素として、課題発見力、計画力、創造力などがかかわってきます。
さらに、「異文化対応力」あるいは「多様性」といえるでしょう。要素としては異文化理解、協調性、柔軟性、コミュニケーション能力なのです。
これらの要素は一つの数値として表すのは極めて困難です。そこで、私が研究で考えたのは、あえてすべての数値をまとめず、ベクトルの合成としてグローバルコンピテンシーを現わせばよいことに気づきました。つまり
X軸に「前に踏み出す力」いわゆる「グローバルリーダーシップ」
Y軸に「考え抜く力」や「イノベーション力」とするのです。

X軸、Y軸としたことで、第一象限が最も強いグローバルコンピテンシーを現わすことになります。第二象限は特に考え抜く力やイノベーション力が強い人材、第三象限は国内基盤人材、第4象限は特に前に進む力が強くグローバル人材の支援人材となりえます。
さらに座標をバルーンとして「異文化対応力」あるいは「多様性」を表現することにしたのです。これによりグローバルコンピテンシーの3次元の指標を合理的に一つの座標で表現することができるのです。バルーンが大きいほど多様性が高く、調整能力が高い人材を現わします。

それぞれの軸の力には前記した+の要素とストレスなど-の要素を演算しました。つまり前に進む力が強くても、本人が無理をしていてストレスが大きくなる場合が存在するからです。

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このオリジナルな発想に基づいて、様々なデータを収集し、可視化してみました。都内のある学校の高校生による検査を行いました。その結果のグラフがこれです。第一象限に存在する高校生もいます。この生徒たちは、クラブ活動の部長など、リーダーシップを発揮しているようです。多くの生徒は第三象限に位置し「多様性」バルーンが小さいことがわかります。社会経験などがまだ少なく、異文化理解などはこれからの状態です。しかし、この年代の生徒たちは、変容が大きいのです。個人個人の位置を本人が認識したうえで、「多様性理解」を目的としたファシリテーションやコーチングなどを行い、大きな変容が期待できます。
もう一つは、グローバル企業の部長クラスとNGOや大学などで、グローバル教育を指導している人材の検査を収集しました。これを高校生のデータと比べると、明らかにその違いが分かります。x軸の位置もより前進力が高いのですが、大きく変化しているのはイノベーション力です。様々な経験を積んできたグローバル人材は明らかに「考え抜く力」あるいは「イノベーション力」が高くなっているのです。また、「多様性」バルーンも平均的に高いことが理解できます。

このように、完全に客観的に可視化することで、そのグループの相互関係もひと目で理解でき、これをグルーピングに活用すると、グループごとの力を平均化することもできます。いかがでしょうか、いままで、感覚や適性だけで同定していた人材をこのように数値化することで学校のパフォーマンスを上昇させたり、企業のポテンシャルを最大限上げることができます。それは結果として人材を生かし人材の能力を最大限活用することにつながります。(斉藤宏)