名勝地、宮城県松島湾に大きな津波が押し寄せなかった理由が見えてきた



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グーグルマップ上の赤い曲線の周辺を遊覧船上から観察、撮影しました。赤い線は筆者が加工したものです。

宮城県松島湾巡検レポート(埼玉県幸手市立幸手中学校 理科教諭 斉藤明彦)

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写真1 海食崖の様子
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写真2 津波が押し寄せた証拠となる松枯れの様子

【過去に起こった変動は何か?】
松島湾の巡検をしてきて、通常の地学の知識ではリアス式海岸の奥では津波が増幅され被害が大きくなると理解していました。それは波が奥に行けばいくほど狭くなるため上に積みあがるためです。ところが報告によると松島では震災の被害が他のリアス式海岸に比べ軽微であったのです。そこで理由が知りたくなりました。
論文を調べてみて、納得できる理由が見えてきましたので、長谷川ほか(2008)論文の紹介とともにまとめてみました。それによると、「宮城県から岩手県にかけての三陸沿岸では,沈水海岸(リアス式海岸)の地形効果によって 15m を超える津波浸水高や 20m を超える津波遡上高が記録され,湾奥の低地は壊滅的な状態となった。これに対して、同じく沈水海岸とされる宮城県の松島湾の奥では 3m 前後の津波浸水高に留まり、被害は小さかった。また東北地方太平洋沖地震では,地震の規模と比較して土砂災害は,著しく少なかった.しかしながら、津波の被害の小さかった松島湾口の島々では斜面崩壊が多発した。」というのである。この現象を説明する仮説として、長谷川ほか(2008)では松島は単なる沈水海岸(リアス式海岸)ではなく、巨大な地すべりによって形成された仮説を発表しているのだ。そして、地すべりで動いた陸地が湾口にあり、それが天然の堤防の役目を果たしたという説である。」また斜面崩壊が多くの島で見られた理由はについては長谷川ほか(2008)では「陸上の地質がそのまま島になっているため、リアス式海岸のように硬い岩が風化、侵食で削られるような現象ではなく、やわらかい地質が崩れたのだと説明している。」この仮説だと現象が納得できます。今後はボーリング調査により形成年代が特定されればこの仮説が正しいことが証明されるでしょう。
このように、現象を一つ一つ調べていくと新しい事実が見えてくることは地球を感じとてもワクワクします。これが理科を学ぶ面白さなのです。探求していくにつれて、次々と学びが深くなっていくのです。

【松島の地形】
松島湾に点在する小さな島々は、風化や侵食の作用を非常に受けていました。写真1に観られるように島の側面が風や波に洗われて鋭角に削られています。まるで海食崖(かいしょくがい;海岸に面している陸地が波の侵食作用により切り立った崖のようになった所)のようでした。「一方で100個所以上の斜面崩壊が発生したそうです。」長谷川ほか(2008)、島々には、松の木が生えていました。所々、松の木が立ち枯れしていました。遊覧船の従業員の解説によると「2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による津波によって、塩害にあったから」だそうです。島に生える松の木の高さに相当するあるいは、それを超える津波が当時押し寄せてきたと推測できます。「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会(2011):今回の津波の浸水範囲と痕跡」によると、松島町では2~5mの津波浸水高だったようです。数mの津波が、当時押し寄せてきたことが写真2から推測できます。

【教えるポイント】
1 松島湾に点在する島は、元々は日本列島の一部が地殻変動で一部沈下し、温暖化に伴
う海水面の上昇によってできた。
2 島は、風化や侵食作用などの影響で海に面している地層が断崖のようになる特徴的な
形をしている。それはまるで海食崖のようである。
3 2のため、長い年月をかけて徐々に島の形や景観が変化していっている。
4 立ち枯れした松の木は、塩害によるもので、2011年3月11日に発生した東北地方太
平洋沖地震の影響を物語る。

【まとめ】
宮城県松島町では、日本三景の一つに数えられる美しい景観が観られます。現在、国の特別名勝、宮城県立自然公園にも指定されています。さらに、全国地質調査業協会連合会と特定非営利活動法人地質情報整備活用機構が共同で選定した「日本の地質百選」の No.12にも選定されています。そのため、地球科学の学習に適した地と言えます。また、歴史や文化の町として知られています。江戸時代には松尾芭蕉が訪れたと言われています。歴史や文化に思いをはせながら、その特徴的な地形が織りなす景観を観察してみてはいかがでしょうか。(報告 齊藤明彦)

【参考サイト】
・松島町HP「松島町の歴史」
http://www.town.miyagi-matsushima.lg.jp/index.cfm/9,1822,50,137,html
・日本三景公式サイト「素晴らしき風光の地 松島」
http://nihonsankei.jp/matsushima.html
・地質情報ポータルサイト「日本の地質百選」
http://www.web-gis.jp/geo100.html

【引用文献】
1)長谷川修一・野々村敦子・山中稔・Ranjan Kumar Dahal・澤田臣啓(2008):日本三景松島は地すべりによって形成された,日本応用地質学会平成20 年度研究発表会発表論文集,pp.135-136.
2)Shuichi Hasegawa, Timihiro Sawada, Ranjan Kumar Dahal, Atsuko Nonomura, Minoru Yamanaka(2008):Matsushima Bay as an Early Holocene coastal Mega-landslide, Northeast Japan, The first world landslide forum 2008,pp243-246.
3)「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会(2011):今回の津波の浸水範囲と痕跡」
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/chousakai/tohokukyokun/1/pdf/sub3.pdf(2015 年8 月31 日閲覧)