モンゴル理科教育質の向上プロジェクト報告(光学分野について) 斉藤宏



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モンゴル国立教育大学
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外付け大インクタンク
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生徒モデル授業の様子
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生徒モデル授業、自作分光器の制作

モンゴル理科教育質の向上プロジェクト報告(光学分野について)    斉藤宏
グローバル教育の理科教育への応用実践例としてモンゴルの理科教育質の向上プロジェクトに専門家として参加してきたので報告する。
モンゴル理科教育質の向上プロジェクトとは 質の向上プロジェクトとは、モンゴル政府がこれまでの「知識偏重」の教育を改め「仕事と生活」のための技術と知識を習得する実践的教育を重視することとし、社会的要請にあった質の向上をめざし初等・中等教育の改革を目指しています。
しかし、教師自身が実践的教育を経験していないため、教育関係者は多くの課題を抱えています。
この背景の下、モンゴル国立教育大学に対して日本の「ものづくり」を通じた理科教育実験手法を紹介し教師たちのスキルアップを目指すのが目的です。
今回のプロジェクトは昨年の第1期に続く第2期で2013年3月から10月までのプロジェクトとして、物理の領域で昨年度の電磁気に加え光学、力学に範囲を広げ実施されています。
私が実践している「グローバル教育」と「ものづくり理科教育」の関連性 グローバル教育と「ものづくり」理科教育の関連性は強い相関があります。
開発途上国はまさに、国づくりに総力を挙げての取り組みをしています。国を発展させる技術者はいくらでも欲しい現状に対し、これまでの教科書中心「知識偏重」の教育の結果、理科教育への興味がわかず、国の発展を支える技術者がなかなか育たないのです。
理科教育の質の向上を行おうとすれば、実験機材は必須で多くの機材購入費用が必要になってくるのは必須です。しかし、インフラの充実にお金は向けられ、教育に費やされるお金はわずかになってしまうのが現地における現実なのです。
そこで、グローバル教育の手法や、自立的に活動できる人材が求められるのです。
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CDのピッチをレーザーを使い計測する教師実験
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第97学校
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モデル授業の後の集合写真
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教師研修の様子1
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教師研修の様子2
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道路と歩道の比較
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恐竜の足跡化石
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塩の結晶
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丘からみたウランバートルの夜景、スモッグが覆っている
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発電所からの温排水を町に流すパイプ
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発電所の排煙
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花崗岩の採石所
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花崗岩の利用状態

モンゴルのプロジェクトに参加してのそのほかの報告

4月1日 モンゴルに到着しました。気温3℃、国際空港から市内まで来るたった17kmぐらいの道路の舗装がぼこぼこでした。空港から都市までの道路は国の顔だと思いますが、インフラに対するメンテナンスができていません。まさにこれから発展していく感じを受けました。
あすからモンゴル国立教育大学で活動です。 4月2日 モンゴル国立教育大学での理科教育質の向上プロジェクトとして、ものづくり理科教育の準備作業に入りました。
日本からすでに届いている実験機材を一つ一つ確認しながら段ボール箱から取り出し、整理と組み立てを行いました。
事前に家村専門家が現地入りし、現地で購入準備できる機材をウランバートルの市内で探し、加工などもしてもらいました。これは大変助かりました。作業行った部屋は十分な広さを持ち、1期で使用した機材などが整理されています。大学スタッフは積極的に手伝ってくれます。今回は、電磁気学、光学、力学分野で、どこでも手に入る実験器具を使って物理に興味を持つ実験を中心に、先生たちに指導します。といってもわかりやすい実験指導には準備は大変です。現地で実験器具を組み立て問題がないか点検しました。しかし、日本と環境の違う国で予想した機材が見つからないなど必ず問題は起こります。
日本で、今までの情報と現地スタッフとの連絡で想定していたことだけではクリアできません。しかし、それらの問題をひとつひとつ解決していくことこそ、日本の専門家の力であり日本の技術力なのです。
手作り分光器のペーパークラフトを印刷するために、プリンターの現地購入に関して、プリンター本体は安いがインクで利益を上げようとしているため、現地にはインクをたくさん使うと連絡しておいたら、Epsonのインクジェットの現地改造モデルを購入していました。その改造には驚きました。インクが入るところに電子回路を組み、そこから細い並列のビニールチューブを外部の大型インクポットにつないである。確かに、インクジェットは替えインクが高いのが問題なのはわかりますがここまでやるのかと写真を撮りました。これは中国製の改造キットなのですが、現地のコンピューターショップではパッケージに入り、各社用のものが普通に売っていました。 日本で考えられない解決策で想定外でしたが、大量印刷に役に立ちました。
日本での想定だけでなく現地の事情を良く知り、最も良い解決策を導入するのが良いと思いました。
4月4日 昨日は雪が降り、朝は真っ白気温は零下7度だそうです。今年は寒く、雪が多いようで、日本のようにモンゴルでも例年とは違うと言っていました。朝は道路は凍結してるんですが、昼ごろには氷と解けた泥水で、ところどころ穴があいた道路を歩くのに気を使う感じです。マンホールも蓋が盗まれたのかないところがあり、地元の人も落ちるそうです。
授業の準備ができたので、大学の教授をはじめスタッフに対してリハーサルの模擬授業を行いました。この授業は最終的にはモンゴルの先生たちが実施するわけですから、その内容を理解してもらいスキルを移転する必要があります。そのためのリハーサルでした。ここでモンゴルスタッフの質問などを受けて授業内容の点検を行いました。
4月5日 6日に地元の第九中等学校で生徒にモデル授業を行うために、機材を運び準備をしてきました。機材運びは大変です。30人分の機材をまとめて持っていくわけで、そのほとんどを私たち専門家が運ばなければならないのです。大学にはエレベーターもないし台車もありません。また車での距離も遠いのです。これは今後の問題として解決しければならない問題を多く含んでいます。例えば機材に関しては「軽量でコンパクト」ということをベースに考えるとか、運ぶ手段として少しでも運びやすいように台車も入れる必要があります。運ぶための人を雇うことも必要だと考えます。無理をして腰を痛めでもしたらせっかくのプロジェクトが台無しでしょう。特に、列車での移動の時など機材運搬に関して考える必要があると思います。
モンゴルでは車は日本車が優勢で日本の技術に対する人気は高く期待が強いということはわかります。期待にこたえるモデル授業になるように努力したいと思います。この学校は地元ではレベルの高いモデル学校ということです。生徒たちの感じは素朴で真面目そうに見えます。あすの反応が楽しみです。
4月6日 地元のモデル校97学校で、高校生と中学生にそれぞれ、ものづくりをテーマに入れた力学と光学の90分授業2コマを実施しました。合計すると180分もの長い授業に対して、集中をとぎらさず、班で協力しながら実験を行い、内容を吸収しようとする子供たちの姿勢に感動しました。いよいよ来週は先生方をモンゴル教育大学に集めてものづくり理科教育指導法の研修を行います。
中学生と高校生にそれぞれ実施したために、反応はそれぞれ違い現地での実施に向けての問題点などがよくわかりました。特に集められた高校生はレベルが高い子どもたちのようで、理解しながら実験を進めていました。中学生たちはやはり、現象について子どものような反応をして、ものづくり理科として重要な現象に対する素直な反応と興味のポイントがわかりやすかったです。
力学の実験で日本製100ボルトの打点タイマーをトランスを通さずに220ボルトに差し込んでいた班が一つだけありかろうじて、火が出たり、機器は壊れたりはなかったのですが、その班の生徒たちは、打点が大きく黒くなっているので、こちらに聞いてきたのですが、引いたスピードが遅かったのだろうと説明したのですが、足元の電源を見て驚きました。やはり現地で行うときには、現地の製品を導入しなければ駄目だなと感じました。
4月7日 土曜日は生徒向けのモデル授業を終えた後に、中学生、高校生の反応を分析し、わかりづらいところ等をより効果的にするために、大きく改善を行いました。事前に日本で考えたスライドの順番も変えました。中学、高校生のモデル授業を先に実施して、その実態をつかんでから先生たちに指導したのはとても効果的な方法でした。
月曜日の教師向け講座の準備が終わった後に、モンゴル教育大学のスタッフと食事を食べながら交流会を行いました。現地のスタッフとの交流はチームとして良いパフォーマンスを出すためには欠かせないことです。このような交流会で現地の人たちの気持ちを知ることはプロジェクトにとって大事なことです。
4月8日 いよいよ。モンゴルの現職の先生方に、現職研修を行いました。日本のものづくり理科指導の例をいくつも紹介し、生徒にわかりやすく指導するために、このやり方を真似するのではなく、自分たちでさらに考えモンゴル流に発展させてもらう目的です。先生方はメモををとったり、携帯カメラで器具の写真を撮ったりと真剣で、動機づけは成功したと思います。
現地の先生たちを見ていて、意欲には差を感じました。しかし、2人を一班としての実験だったため、相手が動かないと実験が進められないので、それなりに皆さん参加しました。うまくいくと笑顔で記録している姿から効果はあったと考えています。難しい理論の理解がいる場面では、大学の先生が詳しく説明を補強して、その説明に対して、声を出してうなずいているところからも、理解は深まったと思います。
この日は現地のTV局が取材に来ました。それが夜のニュースに流れました。モンゴル語の放送ですが、好意的な映像にまとめてありました。 4月9日 ここからは、今後のプロジェクトを続けて行くために、現地の事情を良く知り現地でトピックや教材になりそうな場所の視察を行いました。
ウランバートルの道路は車であふれ、いつも渋滞で、我慢が出来ないのか、そこらじゅうでクラクションをならしまくります。うるさくてたまりません。道もひどいのですが歩道はまったくぼろぼろで、穴だらけ、そこをヒールで平気で歩いていくモンゴル女性はすごいの一言です。道路を横断するときは信号を見るのではなく現地の人がわたるのに一緒についてわたるのが一番安全です。
モンゴルはあらゆる時代の地層があり、岩石の種類や化石も半端ではありません。自然史博物館には恐竜の卵や骨格がたくさんありますが、保管や展示方法などがいただけません。もったいないです。ゴビ砂漠周辺で発見されたタルボサウルスの骨格や足跡化石が圧巻です。
街の中心近くにはモンゴルのフビライハーンに徴用された東方見聞録のマルコポーロの銅像も建っていました。 モンゴルの生活を知るために、ザイサン・トルゴイという場所に行きました。小高い丘の上が戦勝記念碑になっていて、ウランバートルの人たちの憩いの場のようになっています。
夕方になると車や人が列を作って2、300m程の丘に上り夜景を眺めていました。夜景はとてもきれいなのですが、ウランバートルは盆地で、空気には転換層があり、よく見るとその下は火力発電所と暖房のための石炭燃焼の煙によるとみられるスモッグが白く漂っています。スモッグは現地でも問題になっているようです。
今日はモンゴルのピンク色の岩塩を売っている店を教えてもらい買いました。およそ3億年の歴史のある塩です。大きいのは1kgなのでそれは重いのであきらめて少し小さいものにしました。これは日本でも教材になります。
4月10日 今日はウランバートル近郊の地学巡検を行いました。地学の授業も要望があるようです。市内から45kmぐらいのところにあるマンジュシュロという花崗岩の露頭に行きました。
ウランバートルを出るときに通る橋は太陽橋と言って日本の援助です。橋を渡るとすぐに発電所があり、ここから排熱をお湯にして街に供給しています。排煙の問題と、排熱利用の利点とトレードオフの関係です。
モンゴルの花崗岩はペグマタイトといわれる見事に大きな結晶の花崗岩が成長しています。その周りには閃緑岩などの変成岩も見られます。地下深くでゆっくり結晶したため、石英や蛍石やトルマリンなどの鉱物もあります。露頭の周りは現在はキャンプ場や公園のようになっています。風景はヨーロッパの谷あいのような感じで、夏は素晴らしい場所だと思います。日本だったらこの石は美しいので磨いて墓石やビルの壁のタイルに使う石ですが、モンゴルはたくさん出るので、街の歩道の縁石に使っています。もったいない話しです。
ここは花崗岩の産出地ですが、大陸楯状地のモンゴルでは上層は風化し、地下深くで結晶した鉱石がそこらじゅうに産出しています。途中の道路では石炭を売っていました。ほとんど木がなく砂漠化が進んでいるのに、薪まで売っていました。 今後の展開として地学、物理分野でモンゴルの人たちが国で産出する資源を学ぶことに関連した講座や石炭の燃焼排ガスの問題を調査する実験など公害に関わる講座も十分成り立つと感じました。