前にも書いたように、グローバル人財の定義は全くバラバラで、統一化されていません。それは、要素が多く複雑化しているからです。
そのため、スコアで表せる英語力を評価の主流においています。これには疑問も示されています。たとえば英語が話せる、アメリカ人は科学力では強いのかというと、OECDの国際学力調査でも科学的リテラシーの順位は日本のほうがはるか上です。また、グローバルに展開した時に言語は英語だけじゃないことは自明です。
英語力以外においても、望まれるグローバル人財を示す時に、その要素を表で表示し、それぞれの要素を持っているかどうかを、ルーブリック表で判定するなどの作業をしています。確かに、数値にはなりますが、ルーブリックはあくまでも表で、レベル目安を判定するのは、教員や管理職などの人間で、判定の中に人間の主観が含まれているのです。これは客観的とは言えません。
この研究では、複合的な要素を含むグローバル人財を可視化するために、全く新しいオリジナル発想として、ベクトルの合成で表すことにしました。これにより、複雑化した能力を座標位置として示せるばかりか、バルーンの大きさを要素に加えることでより多くの情報を表すことが可能となったのです。
X軸として「前に踏み出す力」いわゆる「グローバルリーダーシップ」を定義します。要素として、主体性、働きかけ力、実行力、チャレンジ精神がかかわってきます。
Y軸に 「考え抜く力」あるいは「イノベーション力」を定義します。この力は、それまでの多様な考え方を融合し新しい発想を創造することができます。これには要素として、課題発見力、計画力、創造力などがかかわってきます。
Z軸とするのは、「異文化対応力」あるいは「多様性」といえるでしょう。要素としては異文化理解、協調性、柔軟性、コミュニケーション能力なのです。
これらの要素は一つの数値として表すのは極めて困難です。そこで、私が研究で考えたのは、あえてすべての数値をまとめず、ベクトルの合成としてグローバルコンピテンシーを現わせばよいことに気づきました。つまり X軸に「前に踏み出す力」いわゆる「グローバルリーダーシップ」 Y軸に「考え抜く力」や「イノベーション力」とするのです。 X軸、Y軸としたことで、第一象限が最も強いグローバルコンピテンシーを現わすことになります。第二象限は特に考え抜く力やイノベーション力が強い人財、第三象限は国内基盤人財、第4象限は特に前に進む力が強くグローバル人財の支援人材となりえます。 さらに座標をバルーンとして「異文化対応力」あるいは「多様性」を表現することにしたのです。これによりグローバルコンピテンシーの3次元の指標を合理的に一つの座標で表現することができるのです。バルーンが大きいほど多様性が高く、調整能力が高い人財を現わします。左の図は例ですが、前に踏み出す力が+1.7、イノベーション力が+1.8、多様性が3.8と判定された場合です。位置的には、第一象限にプロットされ、グローバル性が強い人財と判定されます。同時に、多様性も高くグローバル社会において、リーダーシップを発揮できる位置と判断できます。
それぞれの軸の力には前記した、多くの複雑な要素とストレスなどを演算しています。たとえば前に進む力が強くても、本人が無理をしていてストレスが大きくなる場合があるからです。これらを適性検査からすべて自動で演算するシステムを作りました。適性検査を受けることで、グローバル特性を自動演算できるシステムなのです。人の判断が間に関与しませんので、純粋客観的な数値を表示することができるようになったのです。
そこで、この判定システム(グローバルプラス)を使って、日本のボランティアとして、世界の開発途上国の最前線で活躍する、青年海外協力隊員のデータを収集いたしました。データは赤が、昨年の秋に現地に赴任したばかりの隊員から、志願してくださった方のデータとなります。このシステムはクラウドサーバー上で処理できますので、世界中どこにいても、ネット環境があれば即座にデータを収集できます。
データの青はすでに活動が終了し日本に帰国し、さまざまな職種で活躍しており、JICAの出前講師の協力もされているOB、OGグループとなります。赤の赴任したばかりのグループに対して、青のOB、OGのグループと明らかな変化が見られます。赤のグループには第三象限に位置する、ローカル基盤人財が含まれているのですが、青のグループはすべてが第一象限で、しかも、多様性バルーンが大きく成長しているのがわかります。
ここで、調査対象が違うのだからたまたま、そのような人財に当たったのではないかという疑問もわきます。それはそれで、現在は調査の人数が少ないので否定はできません。そこで、赤のグループはすでに活動2年目に入っているので、赴任時と2年目になったところでの変容を調べてみました。図の青のバルーンが赴任時で、2年目に入ったところで測定したものがオレンジのバルーンになります。これを見ますと、青に対してオレンジがグローバル方向に移動し、多様性が大きく成長していることがわかります。
前にも説明しましたが、それでは、協力隊員OB、OGと実際のグローバル人財との違いはあるのかを調べてみました。左下の図がグローバル人財と周りから言われている方々のデータです。どんな方々かといいますと、グローバル企業の部長クラスとNGOや大学などで、グローバル教育を指導している人財の検査を収集しました。
グローバル人財のTOPの方のスコアや平均値においてはグローバル人財グループのほうが協力隊員OB、OGよりやや上になるのですが、多様性においてはばらつきが少ないように見えます。協力隊員OB、OGは開発途上国の最前線で、自分自身の多様性を成長変容させて帰ってきたとも考えられます。いま、帰国の青年海外協力隊員への企業の途中採用は増えているとのことですが、企業はその力を理解し、積極採用に動いているのではないかと考えます。
このように、グローバルプラスによる測定は今まで見えなかった人間のグローバル力を明らかに可視化できることが理解できると思います。このシステムを、学校においても、企業においても、グループ編成などに使うとグループのチーム力にプラスの効果を期待できます。それはグローバル力の高い人ばかりを同じグループに集めると、極端な場合リーダーシップの覇権争いのようになりうまくいかない場合が出てくるからです。ほかにもさまざまな活用法が考えられます。ご相談いただければ、活用法を提示いたします。
(斉藤宏)