第4回グローバル教育の集い「日本の未来を切り開くグローバル人材育成の本質に迫る」報告

このセミナーは外務省の国際協力60周年記念事業に選ばれました。

パネルディスカッションの会場
パネルディスカッションの会場
国際協力60周年記念事業に認定されました。記念ロゴマーク(外務省認定ロゴ)
国際協力60周年記念事業に認定されました。記念ロゴマーク(外務省認定ロゴ)
3人のパネリスト
3人のパネリスト
多田孝志(目白大学教授)
多田孝志(目白大学教授)
斉藤実(株式会社ネクストエデュケーションシンク社長)
斉藤実(株式会社ネクストエデュケーションシンク社長)
松岡和久(シーセフ副理事長、前JICE理事長、元JICA理事)
松岡和久(シーセフ副理事長、前JICE理事長、元JICA理事)
パネリストによる問題提起の様子
パネリストによる問題提起の様子
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第二分科会でのグループディスカッション
ベトナムからボートピープルとして日本に帰化した方も参加してくれました
ベトナムからボートピープルとして日本に帰化した方も参加してくれました
全体会での、参加者による各分科会のまとめ発表
全体会での、参加者による各分科会のまとめ発表
まとめの全体会で課題の深化ができた
まとめの全体会で課題の深化ができた

9月6日(土)拓殖大学の国際教育会館において、東京、仙台、東京と地域を変え4回目となる「グローバル教育の集い」が開かれました。
今までの経過の深化として、企業が求めるグローバル人材の資質を客観的に可視化し、グローバル人材育成の本質を見極め、グローバル人財リサーチが果たす役割を明らかにする目的でした。
今回は、いままで3回実施してきた、グローバル教育の集いの数々の議論を具現化していく集まりでした。日本のグローバル化が進む中で、教育界も財界もグローバル人材の必要性を唱えていますが、教育界が育ててきた人材が企業にとってはマッチしないという現状の中で、目指す方向性は根底において同じはずで相互に理解を深め、その役割を認識することを目的としました。

多田先生の発表では、グローバリゼーションの光と影として、科学の進歩、交通、通信、情報手段の高速化と低価格化の一方で、社会の変容、内部の矛盾や対立、不均衡の拡大が進んだ、グローバル社会の現実は、変動性、不確実性、複雑性、曖昧性を示し世界にはさまざまな問題が次々と起こっている。教育界は学校教育が最後の砦として人間形成を目指している。それは、人間としての総合力を育むことである。グローバル時代の教育は大変革が必要である。それは質と平等の同時追求、思考探求中心のカリキュラム。対話型授業、学びの専門家としての教師が必要だとしました。
現実には子供たちの悲しむべき現状がある。それは自己肯定の低さ、孤立感の蔓延、対話力の欠如、主体性のなさ、自傷行為です。
その現状を変えるためには、理解不可能性への対処と多様性への対応を克服していかなければならない。そこで、新たな教育の潮流としてインクルーシブ教育、地球市民教育の促進、社会の複雑化への対応する教育を進めるべきだろう。グローバルに活躍できる人間像として朝河寛一、新渡戸稲造の視野の広さ、大局観、対話力をあげた。対話力育成には共創型、指示伝達型、真理追究型、対応型の4種類をあげ、グローバル時代の対話力としては、特に共創型が重要だとしました。

株式会社ネクストエデュケーシヨンシンク社長の斉藤実さんからは、リーマンショック以降、これまでの経済の秩序・バランスが崩壊し、経営環境が変化したことで、あらゆる企業がグローバルビジネスでの競争に晒されることとなりました。経営者にとって人材選びに失敗すれば社会に対応できなくなるため、熱意や責任を持って推進してくれる社員を選抜せざるを得ず、人材こそが資源と考えるようになった。そこでビジネスで必要となる人材を可視化することが必要になってきたのです。この10年で可視化モデルに対する評価は大きく変わり、日本の一部上場企業が社員の経過観察にこのモデルを利用するようになったとのことです。
ビジネスで必要となる能力はハーバード大学教授のローバート・カッツ氏の能力分布モデルによると、テクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキルの3種類に分類すると、企業の意思決定に携わる人はコンセプチュアル能力(概念化能力)が非常に重要となるのです。経団連の新卒採用アンケートにおいても、1位がコミュニケーション能力、2位が主体性、3位がチャレンジ精神と続き、もはや出身校やゼミ、学業成績ではなくなってきているといいます。
斉藤実さんが企業が求めている能力を分析してみると、ヒューマンスキルやコンピテンシーが上位で、実は学校では教えていない能力であることが分かってきたといいます。その中でも特に、最も重要なコンピテンシーとして「主体性」だといいます。「主体性」とは「自主性」とは違い、自分の意思・判断によって、自ら責任を持って行動する態度や性格のことで「責任」という概念が含まれていることが重要なポイントだといいます。
それでは、そもそも性格は変わるのかというと、中学、高校と成長するにつれ半分程度固まってくるのですが、まだ大半は未発達で。大学生でようやく7割程度固まるといわれます。つまり、「鉄は熱いうちに打て」と言われるように、ここでのコンピテンシー育成は重要なのです。
さらに、それ以外のコンピテンシーセットを60選び出し、このセットにより可視化した能力を人間力と名付けました。このシステムを使うことで、その人の総合力を判断し、どの部分を補強すればよいかわかるだけでなく、その人の特性にあった適材適所を選ぶこともできるようになったそうです。
さらに今、このコンピテンシーセットの中で、グローバル人材に必要なエレメントも見えてきたのでこれもさらに開発していくとのことでした。

シーセフ副理事長、前JICE理事長、元JICA理事の松岡和久さんからは、国際協力の現場からの意見として、グローバル人材の定義として、主体的な地球市民として互いの多様性を理解・尊重・活用しながら「自立」し他者と「協働」し、新しい価値を共に「創造」できる人材と考えているとはなされました。
日本にたしての世界からの評価を考えると、マレーシアの前マハティール首相が提唱した日本と韓国に学ぶLooK East政策における、国民の労働倫理、学習・勤労意欲、道徳、経営能力への評価があります。
また、「東アジアの奇跡」として1993年世界銀行報告により日本や韓国・台湾・香港を最も公平な国としたことも重要でしょう。
ケニア、故マータイ女史により日本の自然や物に対する敬意、愛などの意思がこめられた言葉として「MOTTAINAI」精神を賛美されたことも思い出されます。
最近に至っては、サウジアラビアにおいて小中学校掃除導入運動としてハワーティル(改善)が取り入れられの学校清掃には、平等(謙虚さ)、清潔感、共同作業の要素が含まれており、日本人は幼い頃から身につけています。この「しつけ」に学ぶ動きも出てきているのです。
これらの、日本人がもつ資質は、日本が派遣しているJICA青年海外協力隊に参加した若者が現地の人々と共に、派遣された国の人々と共に生活し、働き、彼らの言葉を話し、相互理解を図りながら、人づくり・国づくりに協力して帰国すると、グローバルリーダーとしての資質、コンピテンシーを発揮させることもアンケートから見えており、日本で自然に身に付いた能力が開発途上国の最前線でさらに融合され磨かれると考えています。
最近、企業の中で、利益追求だけを考えない、公益資本主義(Public Interest Capitalism)として欧米型の株式資本主義でも、中国型の国家資本主義でもない第三の道を指す考えが出てきました。それは「三方良し」として、売り手、買い手、世間良しと考える「吾唯知足」利益においても足るを知り「和を以って貴し」となす、日本的「調和」の考え方を企業の経営倫理に入れる動きも重要なのです。
これらを考えると、理想的なグローバル人材とは、最初に述べた定義に加え、主体的な地球市民として、日本が世界に誇れる良い点を熟知したうえで、互いの多様性を理解・尊重・活用しながら、「自立」し、他者と「協働」し、新しい価値を共に「創造」できる人材だとまとめてくれました。

これらのパネルの考え方に対して、
現実においては、企業では欧米的な熾烈な競争が主流だとの意見に対しては、いずれ欧米的な自分だけの企業論理は行きづまる。「3方良し」の分け合う倫理が台頭してくるだろうとのことでした。

しかし、日本の高校生の2012年の意識調査によると、自己肯定感が弱い、自分を駄目な人間と思う人が多い。これは、高校生たちが日本の将来はないのではないかと思っているのではないかとの質問に対し。
それは、戦後の教育において、日本の学校現場は縛られているからだ、生徒には生きる意味の崩壊が起こり、教師には多様な教育が認められず、他の教師と違った教育をおこなう意欲が薄れ事なかれ主義となっているのではないかとの答えでした。

企業では、学校教育で重要なコンピテンシーは育成されていないというが、教師は、ホームルーム、課外活動、クラブ活動指導において指導しているそれは、必ず人間形成に役立っているはずだとの意見も教師からでました。

企業倫理の中に「共に生きる」考えはあるのか、公益資本主義は良いと思うが、まだメジャーではないだろう。コマーシャルだって、物をたくさん買ってもらうための人々の心を変える手段だ。企業の競争戦略ではないかとの意見もでました。

それらの質問に対して、必要なのは、主体性を養うことだろう、それは相手のことを思い、その人の良いところを評価し伸ばすことだ、それが子供たちの自己肯定につながっていくだろう。また、企業の自分だけの論理に対しても、主体的な判断力を養っていくだろう。などの意見と応答がありました。

第二分科会においては

まず、斉藤実さんに基礎コンピテンシー診断について詳細に説明しもらいました。社会人基礎力として若年者に必要な12のコンピテンシーセットをを使い主体性がない人の特徴など明らかにすることができるそうです。この診断に基づき23種類の教育コースを作り訓練することで、自分に足りない部分を上昇強化することができるそうです。
診断では良い悪いを決めるわけではなく、あくまでも可視化することで、自分を見つめ直すことができるのだという考え方です。良いところだけの人材などありえず、欠点が必ず存在します。それを、ポジティブに見るか、反対にネガティブに見るかで、さまざまなことが分かってきます。ストレスに対する耐性を見ると、「うつ」になりやすい人材か否かが可視化できます。それを早めに知り仕事を調整したり、配置を変えたりして、病気になる前に対処ができるそうです。
すでに、300万人のデータを集積し、日本人の平均値は分かっているのだそうです。
会場からの質問として、人間力は必要だとわかるのだが、大学入試が問題である。入試に受かるためには親は子供たちの学力UPが中心課題だ。それにはどのように答えたらよいのかに対しては、もちろん、基礎的な学力は必要だ、両方のバランスが必要なのだ、学力だって入試のための暗記するだけの学力をつけたって、意味はないだろう。人間力は年を取ってしまえばもうほとんどかわらないが、中学、高校では大きく成長させることができる。育てれば上がるのだ。コンピテンシーと基礎的な学力は融合し知識の連合体を脳の中で創る。それは、将来にわたり、真似ではない価値を発見するイノベーション人材に育つと考えればよい。企業にしたって、学力だけで人材を取って入ればイノベート等できず、いずれ行き詰るだろうとのことでした。

そこで会場から希望者一人に基底コンピテンシーを診断してもらいました。
早ければ7分間で144の質問にPC上でyesかnoで答えていくことで結果がグラフ化されることになります。質問は例えば、「たびたび劣等感を感じる」 yes、no、「気持が落ち込むことがある」yes、noという感じです。

テストでやってもらった方は、レーダーチャートから全体の概要としてとても外交的だが現在ストレスがたまっている。しかしパターンからグローバル人材としてリーダーとなれる存在だと診断されました。また、ポジティブな見方の反面ネガティブな見方もアドバイスされ自分を見直す診断だと感じました。

最後の全体会での意見

・日本の子供たちの現状は失敗を恐れ、人と違うことを行うことを恐れる子供たちこの現状の中で、教育界もビジネス界も協力して、どのようにグローバル人材を育てるか考えていかなくてはならない。
・企業が求めるコミュニケーション能力も学校で求めるコミュニケーション能力も根は同じはずだ、根っこの部分でそれぞれの連携は重要だろう。
・青年海外協力隊で戻ってきた人がリーダーとして受け入れられる場合と日本で受け入れられない例もある。戻ってきた組織の考え方も変えなくてはならない。
協力隊参加で得られたコンピテンシーを可視化することができれば、帰国後の活用にも良い方向になる。これも研究してほしい。
・教育の考えるコミュニケーション能力は対話能力(ダイアローグ)である。ディベートのように相手を打ち負かす力ではなく、共に理解する力を養うことだろう。いわゆる「共創型対話」が重要だろうそのためには「学習する組織」をイメージする。チームが切磋琢磨して一致して伸びていける組織だ。
・小学校教員だが、小学校においても、今後対話型授業に変革したい。いまの現状は生徒を早くそろえたい一心で、遅れている生徒を切り捨ててきている。
・教員はクラスでは一国一城の主で、生徒を主観的に理解している現状もある。校長も教員の評価を主観的に行っている。これでは、結局生徒は自分にあった先生にあたり、教師も自分にあった校長にあたらない限り平等な評価は難しいのかも知れない。教師もコンピテンシー診断を積極的に行い客観的評価を得て、自らを省みる必要があるだろう。
・それぞれの校長の良い評価に対応するため、若い先生たちは体制順応型が増えており、学校の未来には暗い影を落としている。その仕組みも問題だ。
・現状では企業は大学のランクにより就職が決まることが多く、結局、親は学力を上げることを優先する。これは変わるのか。
・ここ10年で大きく変わってきている。10年前は、コンピテンシー診断など気にかけなかった大企業がいま、変化している。コンピテンシーを見ての採用のほうが適材適所を見つけ出し、リーダーを見つけやすいのだ、それにより当然利益にも良い影響を及ぼしてきているということだ。皆が声を上げるべきだ。少しずつ世の中は変わる。
・コンピテンシー育成には、青年海外協力隊のように、海外の開発途上国の最前線で活動することが、現地の多様な文化の中で生活、活動を共有する結果グローバルに通用する人材に育つといえる。若いうちに世界を見ることは価値があるだろう。
・教員の免許制度には更新制度があるが、青年海外協力隊等に参加した教員にはそれを免除するような仕組みができればよい。そうすれば、教員はもっと世界に目を向け多様な文化を知り対応できる力が付く。結果として視野の広い教員に教えられる生徒たちは大きく利益することになる。

まだまだ意見は沢山出たのですが、HPにはおもな意見だけをまとめました。
今回の集いは「教育界」と「企業」そして「国際協力の現場」それぞれの、考えるグローバル人材をどのように評価し育てるか、その課題に対して、それぞれのエキスパートから自分の分野を超えた実践的な解決策が示唆されとても興味深いセミナーになりました。やはり、教育界だけでなく多様な人々との共創的なセミナーが実践できたのではと考えています。

また、このセミナーを期に、グローバル人財リサーチの会員に入会してくれる方々も増えました。これからさらに、メンバーを広げグローバル教育理論構築や実践を重ねて行きたいと考えます。