日本社会がグローバル化に進みつつある中において、日本の学生は内向きになりで海外に興味を示さなくなっている現状と言われています。日本の若者は本当に内向きなのか、目白大学の教職課程の学部4年生を対象に青年海外協力隊についての講座を持たせていただいたので、学生からのアンケートをもとにその結果を考察してみました。
日本の未来にとって、子どもたちの成長過程で関わる教師自身のグローバル化は、生徒たちに影響力をもつことからもきわめて効果的です。そこで、教職講座をとっている教員志望の大学生の21歳から24歳の学生に対して教職講座のひとつとしてとして、国際協力機構JICAが組織し世界の開発途上国に様々な業種のボランティアを送っている青年海外協力隊をテーマにして講義を実施しました。
まずは、「青年海外協力隊を知っているか」とアンケートで聞いてみました。それによると講座を受ける前では青年海外協力隊については、少しだけ知っている、かなり知っている、よく知っている、を加えると67.5%となり名前はとりあえず知られていると言えるでしょう。
しかし、制度を理解しているかと言えば海外でボランティアを行っているボランティアというレベルで、よく知っているというわけではありませんでした。さらに、自分の進路の選択支のひとつとして考えに入れていた人となるとわずか11.8%でした。
主な意見を拾ってみますと、
・全くしらなかった。
・存在を知らなかった。
・海外でボランティアをする人
・電車の中の吊り広告で見たことがあるがわからない。
・外国語のスキルやお金がかかる慈善活動
・語学力が必要で、大変なもの。
・発展途上国のために手助けする活動。
・海外で活動しているボランティアなのかなと思っていた、危険なイメージがある。
・世界からみた日本を知ることができたり、新しい自分の考えを培うことができると思うが、参加することのリスクを考えると決断できない。
・外国の発展に携わる団体、専門的な知識を必要とする分野を主としている。
・カンボジアのボランティアに行ったときから興味を持っていた、しかし協力隊の人たちは意識が高く、強い意志がないといけないと思っていた。
意見を読んでみると、全く知らない人がいる一方で、知っている人は、少数ですが、参加を考慮したことが伺えるほど、かなり詳しく知っていることが読み取れました。
青年海外協力隊への応募数は1994年代には年間12000人ほどもあったものが最近は2400名ぐらいまで減少しています。およそ5分の1にまで減ってしまったことになります。下記の2004年から2012年までのグラフをご覧ください。2009年の上昇を除けば、減少傾向です。
2009年の応募上昇に関してはリーマンショックによる就職先の激減が、就職者にとっては、とりあえず無職より経歴を作った方が良いと考え、手当の出るボランティアへの参加者が増えた特殊な理由ではないかと言われています。
この現象は青年海外協力隊だけの現象なのかを考えるため、2004年から2012年までの海外留学者数のグラフの両方の人数を比較してみました、2009年の青年海外協力隊応募の個別上昇を除きその傾向は似ています。
しかし、割合を計算してみると、海外留学者は2004年から2011年までに、約31%減で下げ止まり傾向を示しているのに関して、青年海外協力隊は同じ期間では、40%減で、留学者の減少よりもさらに、約10%も減少しているのです。
これらは元をただせば成人人口減少が原因ではないかとも考えられますが、2004年から2011年までの成人人口との比較をしてみると(下図)約20%減で成人人口の減少率から考えても青年海外協力隊への応募率減少は、減少率の差からも明らかに減っていると考えられます。
この減少傾向は、最近さらに、世界各地でテロやエボラ出血熱などの感染症の問題が取り上げられるにつれ、安全性を心配する人も増え、リスクを考えるとこの方向性が反転するのは厳しいのかもしれません。
それでは、若者は本当に海外に出て行く気持ちはないのか、私の青年海外協力隊参加、シニアボランティア参加の経験をもとにネガティブ、ポジティブ両方の内容をとりいれ現場で感じたよりリアリティーあふれる内容を話しました。
特に青年海外協力隊のメリットとデメリットについては、現場を体験したものとして多様な観点から具体的な話を進めて行きました。
ガイドラインは以下の内容です。参加することのデメリットとして
• 参加は日本の社会では現実逃避ととられる場合もある
• 事故と感染症のリスクは高い
• 日本とは違った社会でのストレス
• 協力隊は国際交流のレベルしか要求されない
• 2年間ハイテクの世界からローテクの社会での技術活用となる
• 帰国後の感覚がずれる「浮く」不適応になる場合も
一方メリットもはなしました。
• 語学訓練と現地での語学習得(特に現地語)
• 国際的な人的ネットワークができる
• 自分自身の変容(多様性、コミュニケーション力)
• 現地では住居の他生活費をもらえる
• 現地が危険な状態になると避難や帰国となる
• 帰国後国内積立金が得られる
• JICA専門家、開発コンサルタントへの道が開ける
具体的な内容を聴き、躊躇していたことが明らかになってくると、気持ちが変わってきたようでした。結果的にアンケートでは理解が広がったが50%、自分自身の変容を感じた人が23.5%、さらに行動を起こしたいと感じた人が11.8%と大きな変容が起こりました。(下の円グラフ)
グラフからもわかるのですが、理解が広がっただけに留まらず、心の変容を感じた人や、行動への端緒が見えてきた人が出てきました。
講座を聴いての変容について書いてもらったアンケートから抜き出したものを記述します。
・環境保護を始め、現地に根差した支援が大切で、続ける中で関わる自分自身も多くのことを学び気づき考えを広げて行くことのできる素晴らしさがあると思いました。
・協力隊参加後の道も開けていることを知った。
・聴いているだけでも日本との違いに驚いたが、実際に行ったら想像を超えるものがあると思った。
・日本は地方どこでも安全だが、一つの国での貧富の差が大きいことが分かった。
・協力隊は、物資、人材、知識を送り込むものだと思っていた。本当はもっと広い意味での協力であることが分かった。
・本当に様々な場での活動があるのだと感じた。感染症などの病気のリスクは怖いと思った。日本の技術はすごいのだと改めて感じた。
・動物環境の保護など様々な活動を行っていることを知ることができた。
・協力隊のイメージが広がった。
・メリット、デメリットがよくわかった
・協力隊活動には幅広い知識が必要なことがわかった。
・様々な角度からものを見ることがとても大切な仕事であることが分かった。
・理科教育は何もなくてもそこから何かを生み出せることがわかった。
・教育に関係している活動だけではないことがわかった。
・日本の技術や心を持って海外へ行くことは、危険はあるがそれをうわまわる経験や知識技術が得られ日本にとっても、海外にとってもプラスになるすばらしい制度だと思った。
・教員になるだけが人生ではないのかもと思った
・地学、生物に興味をもった
・人生経験に於いて少し勉強になると感じた
・協力隊参加で自分のスキルアップができる
・様々なリスクはあるけれど、その分メリットがある。多くの人と交流することで自分のコミュニケーション力が高まる。参加することは大切と思った。
・人びとの生活環境や、価値観の違いを知ることが他人の心に触れるためのひとつの要素となるのだと感じ、海外での経験が知ることの第一歩となると感じた。
・私は、自然や生物が好きです。もっと勉強し理科の免許を取得し理科の教員になりたい気持ちと、地球環境に携わる仕事に就きたい気持ちが強くなった。
・自分自身を変化させるチャンスがある。自分を求める場所を見つけるチャンスがあると感じた。
・やっぱりやってみたいので、学力をつける
・現地で学び、日本の生活にいかしたい。
・日本はいかに安全で安心な国であることを改めて知った。でも世界に興味がわいたので、いけるときに行きたい。
・教員は学校の中に留まってしまうという話を聞いて「教師の常識は社会の非常識という言葉が頭に浮かんだ。人間一つの場所に留まると、考えやものの見方が固定されてしまうと思った。私も、その傾向があるので、いろんなものを見て、触れて行きたいと思った。教えるもの自身が積極的に多くのことを学ばなければ教育はできないと実感しました。今日感じたことを忘れずに行動していきたいです。
書かれている内容を読むとさすがに4年生と思いました。間もなく大学を卒業し、社会に出ることを真剣に考えている時期で、自分の考えていることと、今回の講座の内容をしっかりと結びつけて考えをまとめたことが理解できる意見が多く見受けられました。
知識が広がった以上の内容では、「教員になるだけが人生でないのかもと思った。」と新しい方向性への期待を寄せているものや、「協力隊参加で自分のスキルアップができる。」や「様々なリスクはあるけれど、その分メリットがある。多くの人と交流することで自分のコミュニケーション力が高まる。参加することは大切と思った。」のように、協力隊参加により、自分自身の成長を期待し重ね合わせる気持ちができて来たと考えられます。さらに、最後の意見にもあるように、教師を目指すものの、教師の固定した知識の問題を指摘し、教えるもの自身がアクティブに多様なものごとを学ぶ必要性と結びつけた意見を述べてくれました。
まさに、グローバル教育の狙いはそこにあり、教員であっても、教員でなくても、世界に出て行き多様な対応力を身につけて日本に戻ってもらうことが、日本のグローバル化の原動力になると期待しています。
ところで講座の中で、最も興味深かったところは何か聞いてみたところ、
・日本の技術を生かした貧しい国での教育はすばらしいと思いました
・何もないところから何かを作り出せる人間を作りたい
・機械があっても人がいなくては価値は産まれない、機械があっても、それが使われなければただの宝の持ち腐れである。自分も欲せられる場があれば活躍できたらよいと思った。
これは、私のセネガルでの視聴覚機器利用による環境教育やヨルダンでの海洋環境保全指導の具体的な実践を詳しく話したことをしっかり理解してくれたと考えています。
ともに、物がほとんどない場所での柔軟な対応力と工夫、ものづくりの姿勢が理解され影響を与えたと考えています。
つまり彼らは、決して、内向きになっているのではなく、躊躇しているだけで、世界で自分の可能性を試してみたいという気持ちやエネルギーは間違いなく深層にあるのだと感じました。それならば、グローバル教育へのアプローチ次第で、日本の若者たちの深層にあるチャレンジ精神を引き出し、活性化できると確信しました。まさに、私たちが進めているグローバル教育の可能性を感じた時間でもありました。(斉藤宏)