Coral monitoring 水中でのマクロ撮影の活用



ミドリイシサンゴの仲間
拡大写真、薄い茶色の部分がポリープ、白い部分が石灰化した骨格部分
緑色に見えるキクメイシの仲間、褐虫藻は褐色だが、サンゴ自身が作る色素タンパクや蛍光タンパクの色が強調されるため様々な色を出す。表面で白っぽく見える部分が褐虫藻が少なくなっている部分。
このような部分も拡大してみるとポリープが透けたような部分が多くなっている。
ミドリイシの仲間、先端の部分は新たに石灰化している場所でその下にはポリープが見える。
拡大すると、下の部分はうっすらと表面が茶色に見え、黒っぽく見える点は濃い茶色のポリープが見える。この部分には褐虫藻が多いと考えられる。
複雑な構造のキクメイシの仲間
拡大写真。表面には奥まで万遍なく褐色の褐虫藻が共生していることが見える。
石灰化して激しく成長しているように見える。形が円筒形に整ってくるとうっすらと茶色を帯びてくる。
拡大すると、石灰化している中心にはポリープがあることがわかる。
円形の模様が美しいキクメイシの仲間のポリープ
拡大したものであるが、緑の色素だけでなくうっすらと茶色も見える。
アザミサンゴ
アザミサンゴのポリープ
アオサンゴの表面からポリープが出た状態
アオサンゴのポリープが引っ込んだ状態では、このようにたくさんの穴が見える
ハマサンゴの仲間の一部が白化している状態
境界のところを拡大するとわかるが、ポリープは茶色い場所にも、白い場所にも見えるが、白い場所のポリープは透き通り、出方が弱いように見える
茶色と白の間の部分の拡大では、まだ白い部分にポリープが見えることから斃死してはいない。瀕死の状態であるが、まだリカバリーの可能性はあると考えられます。そのためにもモニタリングは必要です。
シャコガイも褐虫藻を利用している。
シャコガイの表面の拡大写真、シャコガイも白化する場合がある。

今回は、サンゴのモニタリングを簡易化するために、水中でマクロ写真を撮ってみました。これにより、ある程度のサンゴの状態が判断できるようになります。簡易なモニタリングとしては数値化は難しいものの、水中カメラだけで撮影できる簡易さを考えると、数値化を行う前のサンゴの状態を事前チェックするのには使えると考えます。これで、13倍程度なのですが、これでも褐虫藻が点では見えていますので、もう少し拡大できると褐虫藻の形も観察できる感じです。

こうして、サンゴも拡大してみると、その造形も不思議ですが、きれいだと思いませんか。サンゴ礁というと、ついカラフルな魚に目を奪われてしまうのですが、実はその魚が住めるのも、生態系の中心となるサンゴがいるからなのです。本来、サンゴが生息する、透明度の高いきれいな海には、深海から養分が上昇してプランクトンがたくさんいる北の海のような栄養分はありません。

サンゴに共生している。褐色の植物プランクトンの褐虫藻が光合成により養分を作り、その養分をもらってサンゴは成長します。あまった養分は、周辺にプランクトンを増やし、それを目当てに小魚が集まり、そこに大きな魚も集まってきます。しかも、サンゴの作り出す立体的な空間は魚たちが隠れ、敵から身を守る場所でもあるのです。

しかし、造礁サンゴと言われる浅い海にすむサンゴの適正な生育環境温度は狭く25度から29度ぐらいで、30度を超えた高温が続いた場合や反対に18度以下の低温が続いた場合に対してもストレスを受け、褐虫藻を放出すると言われています。その結果、ポリープは透けて、白い石灰質が見えて白化するのです。その状態が長引けば当然、斃死してしまいます。また、雨や台風の後に、陸から流入する土砂によっても大きなストレスを受けるのです。

このようにデリケートな環境で生息しているサンゴの保全にとっては、健康診断となるモニタリングが重要なのです。モニタリングにより早い時期からデータを蓄積しておけば、変化に気づくことができ対策も可能となります。簡易で安価に客観的なデータを収集できる方法の研究は地球環境変動が進む現在、必要な研究なのです。

なぜ「グローバル教育」と「サンゴ研究」が関係してくるかというと、地球環境の生物指標としてサンゴはなくてはならない存在だからです。グローバル教育は地球規模で課題を解決していく人材の育成です、それは経済だけでなく、同じ海洋でつながった地球環境も理解することこそがベースになると考えれば理解できるでしょう。開発が急激に進み、地球温暖化が疑われる温暖化物質の排出すら世界は合意できていないことを考えると。サンゴのモニタリングで、サンゴの危機を知らせ、世界に警鐘を鳴らすことは大きな力になると考えています。

人間が地球上に発祥するはるか以前から生息し透明度の高い貧栄養の環境で生物多様性に富んだ生態系の中心に位置してきました。現在のサンゴの起源はおよそ2億5千万年前と言われており、化石サンゴに至っては5億年とも言われています。まさに海洋環境にとっては、かかせない存在なのです。人類発祥以前も発達と衰退を繰り返してきましたが、滅びることはありませんでした。しかし、ここ数十年の間に人類の影響と思われる温暖化を含む地球環境変動により世界的規模の白化現象が起こり、そこから多くの問題が報告されるようになってきました。小島嶼開発途上国では、開発が進みサンゴ礁の成長が弱まり、サンゴ礁の成長による島を守るシステムそのものが機能しなくなり、島が水没する可能性がある地域も存在します。

サンゴ礁は栄養分の少ない透明性の高い海洋に光合成により栄養分を供給し、生態系の中心となっているため、サンゴ礁の衰退はそのまま、サンゴ生態系の危機につながることになります。さらに、サンゴは二酸化炭素を固定化して外殻となる骨格部分を作っており、長い地球の歴史の中で温暖化物質の減少にも関係してきたと考えられています。

もちろんサンゴ礁が作り出す美しい海底地形とそれを中心とした生態系は、世界のダイバーを楽しませ、観光収入の増加にもかかわり、開発途上国の経済的な収入にも大きな力を及ぼしています。

ところが1998年には、高水温を原因とする世界規模のサンゴの白化現象が報告されました。それ以前にも白化現象は報告されて来ましたが1998年の白化は最も地理的に広がった大規模なものでした。1960年から1970年の間の大きな白化現象は9回に対して1979年から1990年の12年間には60回の大きな白化現象が起こってきていることから、地球温暖化との関連が指摘されています。このように地球環境変動が進行する中、世界のサンゴ礁の危機が現実に直面しているのです。(斉藤宏)