グローバルコンピテンシー可視化研究、青年海外協力隊参加の経験は行動特性にどのような変容をもたらすのか



このテーマはグローバル人財リサーチの研究テーマの一つであります。

青年海外協力隊員への参加は、自分たち先進国の視点でかかわり、上から開発を促すようなものではありません。ユネスコのESD(持続的な開発のための教育)ロードマップのグローバルアクションプログラム(GAP:注1)によると「持続可能な開発」は、「一人一人の考え方の変容が求められる。」とあるように、自分自身も含め現地の人々も、ともに変容するというイメージが近いでしょう。
それこそ、日本と比べれば何もない不便な現地で、現地の人々とともに、課題解決を考え実践し暮らす2年間なのです。

派遣された現地も助かり、自分自身も変容する、さらに日本に戻って活躍することで日本社会の変容も期待できるプログラムと考えることが妥当だと思います。

このとき、個人の変容はどのように起こるのか、そもそも、協力隊に参加を希望する人と、そうでない人は何が違うのか、変容した個人は日本で役立つのかこれらの疑問を分析していくことがグローバル人財としての帰国協力隊員を理解することにつながるでしょう。

協力隊に参加することは、日本社会では数々のデメリットに遭遇します。箇条書きで書いてみましょう。

• 現職の場合派遣や休職などのシステムが整っておらず、会社を2年間あけていくことが認められない場合が多い。
• 参加は日本の社会では現実逃避ととられる場合もある。
• 事故や感染症のリスクは決して低くない。
• 日本とは違った社会でのストレスを受ける。
• 協力隊員には国際交流のレベルしか要求されない。
• 2年間ハイテクの世界からローテクの社会での技術活用となる。帰ってきたときには浦島太郎になるかもしれない。
• 帰国後の感覚がずれる「浮く」不適応になる場合もあります。
• 家族がいる場合、単身赴任なので家族からの理解を得ることの困難があります。

これらのデメリットが、首都から任地に配属されるや否や襲って来ます。それゆえ、派遣前訓練の間に、どんな課題にも自分自身で課題解決できるメソッドを徹底的に教え込まれます。語学はもちろんですが、基礎体力の増強、マラソンによる耐久力の訓練、野外訓練における自炊やサバイバルの実践や、最後には自分の心の平静を保つ座禅の訓練まで入っています。決して楽な訓練ではありません。

もちろんデメリットばかりではありませんメリットもあります。

• 語学訓練と現地での語学習得(特に現地語は貴重)。
• グローバルな人的ネットワークができる。
• 自分自身の変容(多様性、コミュニケーション力)。
• 現地では住居の他現地生活費をもらえる。
• 自費だが、現地から離れ周辺諸国に任国外研修に出られる。
• 現地が危険な状態になると避難や帰国となる危機管理があるため最悪の事態は避けられる。
• 帰国後国内積立金により、就活費用が得られる。
• 望むひとにはJICA専門家、開発コンサルタント等、本格的な国際協力、国際貢献への就職の道が開ける。

これらのメリット、デメリットを、青年海外協力隊に参加しようと考えるみなさんは悩みに悩み抜いて、決断してくるのです。そして現地で生活者として様々な変容を得て帰国してくるのです。旅人である海外旅行とは大きく違います。これこそ大きなメリットかもしれません。

その結果、帰国した青年海外協力隊員から調査したアンケートの結果をご覧ください。

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青年海外協力隊帰国後進路状況・社会還元活動調査(原典の番号表8、図5:注2)より、協力隊参加により成長した能力を3つ以内で自身で書いてもらったアンケート調査の分析によると、柔軟性、異文化理解、語学力、コミュニケーション能力、実行力という順序で続いていくことが明らかになっています。TOPに書かれた「柔軟性」や次の「異文化理解」は、いわゆる「多様性」にかかわるコンピテンシーと考えられます。協力隊への参加で、得られる変容の多くは「多様性」を得たと感じているのです。私も、グローバルコンピテンシーの要素で最も重要なものは、「多様性」と考えています。

さらに、上に述べた青年海外協力隊に参加するデメリットとメリットを比べた時にみなさんの結論はどうでしょうか?
現在隊員生活を始めている関さんのリポートにもあるように、場所によってはマラリアに対して薬を飲み続ける必要が出てきます。そのような事情を考えると、おそらく二の足を踏む方が普通ではないかと想像します。それでも参加を決断するのは、「リスクテーキング」ができる「実行力」が関係してくると考えています。JICAのアンケートでは5番目に出てきます。
今後、グローバルコンピテンシー可視化研究は協力隊委員にも協力してもらいグローバルキーコンピテンシーを明らかにしていきます。

図のJICAの調査はアンケートに自分で記入した主観的な結果ともいえます。そこでこの調査の正当性を証明するためにも、客観的なコンピテンシー適性検査(NET*ASK)をベースに、グローバルコンピテンシー可視化を明らかにするため、青年海外協力隊員の適性検査による調査を進めていきたいと考えています。(斉藤宏)

注1) GAP:ユネスコのESD(持続的な開発のための教育)ロードマップのグローバルアクションプログラム(GAP)
http://unesdoc.unesco.org/images/0023/002305/230514e.pdf
注2)「青年海外協力隊帰国後進路状況・社会還元活動調査」 独立行政法人国際協力機構青年海外協力隊事務局
監修佐藤真久2012年3月