花粉は迷惑?!花粉の正体とはたらき アクティブラーニングとしても使えます



花粉症の原因の代名詞とも言えるスギ花粉が飛散する時期となりました。毎年2月から4月頃にかけてスギの花が開花するからです。みなさんは、花粉と聞くと花粉症を連想し迷惑な存在であると考えがちではないでしょうか。しかし、花粉がめしべの柱頭につくことにより受粉が行われ、実がなることは小学生5年生で習います。つまり、花粉がなければ食卓に並ぶトマトやキュウリ、リンゴやイチゴなどはできません。さらに、花粉は意外なところで活躍しています。それは、過去の気候などを探る手がかりとなるのです。これは古気候と呼ばれる学問です。湖底や海底などの堆積物に含まれる花粉の化石を分析して当時の植生を推定し、過去の気候などの環境を推定します。ここで、花粉が化石になって残っているの、と疑問を持たれた方もいるでしょう。実は花粉の細胞膜にはスポロポレニンと呼ばれる有機物が含まれており、非常に分解されにくいため化石として残ることができます。

私は大学生時代に埼玉県大里郡寄居町用土地区の櫛挽断層西端部(北緯36°10′ 東経139°11′ 海抜約74m 図1)のボーリングコアサンプル(図2)を用いて花粉分析を試みた経験があります。それまで花粉の形態に注目したことはありませんでしたが、分析を通じて花粉の様々な形態に関心を持つようになりました。今回は分析で撮影した花粉化石をいくつか紹介します。ご覧になった皆様が、花粉の新たな一面やイメージの変容に気づき、少しでも花粉や古気候に興味や関心を持っていただけたら幸いです。

図1 櫛挽断層調査地点及びナウマンゾウ化石産出位置 国土地理院電子地図18.000分の1

図1 櫛挽断層調査(資料採取)地点

ボーリングコアサンプル (360x270)

図2 ボーリングコアサンプル(一部)

スギ花粉写真
図3 スギ属
ブナ花粉写真
図4 ブナ属
マツ花粉写真
図5 マツ属(五葉松)
マツ花粉写真2
図6 マツ属(二葉松)
map-1
図7 ※「中央構造線博物館ホームページより引用」、櫛挽断層は水色で示されるフォッサマグナの中の中央構造線の点線のあたりとなります。

 

【花粉の形態的特徴】

※図中の白線はスケール(目盛り)です。なお、㎛(マイクロメートル)は1mmの1000分の1mm、つまり0.001mmに等しいです。100.00㎛=0.1mmです。

スギ属(Cryptmeria,図3):楕円形で小さな角のようなつくりをもつのが特徴です。かの有名なモンスター(ス○イム)に形状が似ておりイメージがしやすいかもしれません。

ブナ属(Fagus,図4):表面に顆粒状の模様をもつのが特徴です。また、周辺部に孔があります。

マツ属(Pinus(Haploxylon),図5):形は楕円形に近いです。本体両側には球形の羽のようなつくりがあります。五葉松(単維管束亜属)は、花粉本体の背面に波状の部分があります。

マツ属(Pinus(Diploxylon),図6):形は基本的には五葉松に同じです。。二葉松(複維管束亜属)は、花粉本体の腹の部分が薄く、滑らかなっています。

 

この活用ですが、例えばブナ属の花粉のパーセンテージが多いと、冷温帯性落葉広葉樹が繁茂していた気候と推測され、マツ属の場合は暖温帯から冷温帯に広がり、スギは中間温帯に多い。これらの出現率を地層の層序ごとに調べていくと、年代の変化により、気候の変化がわかることになります。

ところで、今回の花粉化石の年代とは違いますが、この「櫛挽断層」というのは面白い場所なのです。(図7)実は、日本を南北に分けている中央構造線が関東にまで伸びている場所あたりなのです。日本はこの構造線の北側を中央構造線内帯といい、この南側つまり関東平野側は外帯といいます。関東側外帯は過去に太平洋側のプレート移動によって太平洋から移動してきた全く違った地質の島が7000万年前ごろ、日本に押し付けられた場所なのです。しかも糸魚川-静岡構造線により1450万年前陥没した結果日本の東西を二つに分断するフォッサマグナ(破砕帯)の中なのです。

さて、花粉化石の観察は土壌や岩石から分離するため薬品を使わなくてはならず、簡単にはできません。しかし、現在の植物からの花粉は顕微鏡さえあれば観察は容易にできます。アクティブラーニングとして活用するのに良い方法が発表されていました。スライドグラスぐらいの大きさに切った厚紙にパンチで穴をあけ、裏側にセロテープを貼り、表側に花粉を押し付けるだけです。これはとても便利で、班に数枚これを持たせて、屋外観察で好きな花の花粉を貼り付けさせ、教室に戻り顕微鏡で拡大してみるだけです。セロテープの粘着面に花粉をまいてから、テープを裏返してスライドグラスに転写する方法もありますが、指に張り付いたり汚れたりして容易ではありません。この方法は観察場所ですぐに採集できる点で優れています。参照URL(西東京市立田無小学校 中澤仁生 先生の発表からです)をご覧ください

埼玉県幸手市立幸手中学校

齊藤明彦(グローバル人財リサーチ運営委員)