「グローバル教育コンクール2016」表彰式 報告 (於)JICA地球ひろば



会場の様子1
JICA地球ひろば所長、田中雅彦
外務省 国際協力局政策課 企画官 四方明子
NPO法人全国国際教育協会 常任理事斉藤宏
日本社会教育学会会長、中央大学文学部教授 森茂岳雄
目白大学名誉教授、金沢学院大学文学部教授 多田孝志
会場の様子2
会場の様子3
表彰者全員記念写真

13回目となるグローバル教育コンクール2016表彰式に参加してきましたので報告いたします。

平成16年度から外務省主催で始まったこのコンクールは平成21年度より名称を「開発教育・国際理解教育コンクール」から「グローバル教育コンクール」と変更し、さらに2013年度からJICA主催となり4回目の開催となりました。これまでも数々の感動的な作品を表彰し、アーカイブして公開してきました。

今年度は応募総数280作品、「写真部門」203作品、「グローバル教育取組み部門」77作品の応募でした。

応募作品の今年の特徴は「従来型」の教材を活用しアクテビティ―を行ったという報告から、新しい発想のグローバル教育の傾向が提起されてきたと強く感じました。

これこそ、このコンクールの狙いで、優秀な実践を創り出した作者を褒賞することで、応募者には参加へのモチベーションをもってもらうことで、時代の変化とともに変わるイノベーティブなグローバル教育手法を自立的、効率的に収集し公開開放していく持続可能なシステムとして動き始めたと感じました。

JICAが日本のODAを牽引していくうえで、実際の現地でのODA援助事業と、それを後方で支える健全な世論を育てていく役目があります。国土も狭く資源もない日本は、人財こそが資源です。「世界とともに生きる」ことのできる多様な文化と共生できる人財を育成していかなくてはなりません。それは持続的な地道な「グローバル教育」が効果的です。ここで発表された作品のバックグラウンドで、多くの日本の市民たちがこの教育の恩恵を受け多様性を広げ地球市民として育ってていくと思います。(斉藤宏)

主催者挨拶

JICA地球ひろば所長、田中雅彦

今年で13回目となるグローバル教育コンクールには、世界を感じさせるような作品が多かった。しかし、社会環境は青年海外協力隊員応募者が1/3ほどに減少しているなど若者の内向きの傾向が見えています。前のJICA理事長だった緒方貞子さんが言っていたことなのですが、「心配しているのは日本が一国だけ幸せであればよいのではないはずだ。若い人はもっと日本の外に目を向けてほしい。」ということであった。今や日本の企業も海外とのつながりなしには成り立たない。JICAとしてはグローバル教育コンクールは、海外からの学びや気付きを日本の現場で役立てるためにエッセイコンテストとともにに実施している事業です。エッセイコンテストは応募数8万を超える効果をあげています。その他も教師海外派遣研修、出前講師派遣、その他セミナーなど国内での広がりを深めるさまざまな活動をしています。ここ、「地球ひろば」においてもSDGs(持続可能な開発目標)展示として持続可能な開発展示を行っています。現在、教育現場にもグローバル教育へのうねりが起こっており、JICAはこれらの活動を引き続き支援していきたい。

後援代表挨拶

外務省 国際協力局政策課 企画官 四方明子

グローバル化の進展により,世界で起きている出来事を自分の事としてとらえて,一人ひとりが主体的に行動することの重要性が増しています。国際社会も,国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の下,「誰一人取り残さない」未来を構築する共通の目標“SDGs”を立て,この考えを共有しています。

戦後,「支援を受ける立場」「支援をする立場」の両方を経験した日本だからこそできる貢献があります。今回の受賞者の皆様は,世界が抱える課題をしっかりととらえ,「自分の事としてとらえよう」と写真を通じて投げかけ,学びの現場で工夫を凝らされています。

オールジャパンで,そして世界全体で課題に立ち向かえるよう,外務省としてもグローバル人材の育成を一層強化する所存です。

講評

NPO法人全国国際教育協会 常任理事斉藤宏

グローバル教育コンクールは、世界の課題を自分の問題として考え、行動を起こせるグローバル人財の育成をサポートするプログラムです。日本のODA広報を教育面からサポートしています。

今年度の応募者の傾向は最も多いのが学生で54%大学教員を含めた教員が32%で、これを合わせると86%が学校関係からの応募になります。その他が企業、NPO、ボランティア関係者及び市民となります。その名の通り教育界で参加者が増えているのが現状です。

感動を与えて選ばれた作品は表彰されるとともに、著作権をJICAが開放し、自由に使用できる仕組みです。公開して、活用してもらうことで理想的な持続可能なグローバル教育システムを作り上げてきました。

写真部門は、初めて教育現場でグローバルな内容を取り上げる場合、現地にいけない人たちに現場を共有できる仮想体験をしてもらうため多くの実践の導入に使われています。そのまま活用できる優秀な素材が集まることからも、効果的な部門です。

私は、ミャンマーヤンゴンの子供たちの様子を表現した作品に感動しました。みずみずしい現地の情景と自然な色彩感覚の表現は見る人の感性を刺激します。

あたりまえに労働力として位置づけられる現地の子供たちの自然な様子や、素朴な教室での授業風景、僧侶教育など、立派な施設ではないが、子供たちの生きる力を感じました。

日本の子供たちが多様な世界の今を知るには十分な情報が満ちています。グローバル教育において写真を用いるのは、どれだけ多様な情報を含んでいるかが決め手です。誰でも見方が同じになってしまうステレオタイプの写真は恣意的になり本当の多様性を引き出すことはできないでしょう。多様な見方を引き出せる、被写体とのコミュニケーションの存在を確認できる写真こそ価値があると思います。

一方、グローバル教育取組み部門は、写真部門と違い、そのまま使えるものではありません。しかしグローバル教育へのアプローチにこんな方法があったのかと新たな観点や気付きを与えてくれる部門です。

今年は、今までとは違った多彩な実践が紹介されました。目を引いたのは、筆者がいう「外国人よりもサルのほうが多い田舎の学校からの提案」には新しい息吹を感じました。

Skypeを使ったグローバル教育です。確かにSkypeは今までもインターネットによる活用として何度も取り上げられてきましたが、途上国あいてのSkypeの通信障害や、ファイル共有ソフトの一つであり不特定多数との通信の学校教育での利用に関しては企業や学校では禁止のところもあり、お勧めはできませんでした。しかし、マイクロソフトに買収されてから、P2Pシステムからクラウドスーパーノードに変更されて、安全性は格段に上がりました。そのうえでセキュリティに守られた「スカイプインザクラスルーム」の活用によりいわば、信頼された相手との通信ができるようになるのです。ITを活用してより実体に近づけていく手法として活用を検討する価値はあると感じました。

もう一つの新しい流れはSGHと絡んだ研究実践です。海外の現地大学生などと合同チームを組んでグローバルな社会課題の解決に取り組むという新しい方向性が見えてきました。いわゆる「国際交流」の次、しっかりとした研究課題を軸に現地との共同研究で課題解決を行うといったスキームです。このスキームは実体験を通じて課題解決まで進む手法で、実践にかかわった人財の育成にはもっとも効果的だと思いました。

日本社会教育学会会長、中央大学文学部教授 森茂岳雄

今回の特徴は、スカイプやTV会議システムなどICTを活用した実践が多く見られたことである。また、集団間の交流ではなく友達づくりをベースにした個人間の交流、今日の世界的課題でもあるイスラム圏との交流、通信制高校での国内ネットワークを活用した試み、SGH校による現地との共同での研究、日本の特別支援学校のバリアフリー教育ネットワークが車いすを修理してタイに送る試みなど、多様な活動が寄せられた。また、同僚教師との共創を通してオリ・パラ教育に取り組んだ実践、その他、多忙を極める学校で朝・10分間で取り組める実践などユニークなものも見られた。

今後の課題としては、以上のような多様な学習活動をどう評価するかである。このような多様なパフォーマンス課題を評価する方法として、ルーブリックの作成等の検討が望まれる。

目白大学名誉教授、金沢学院大学文学部教授 多田孝志

コンクールの意義はグローバル人財の育成が大きなねらいである。それはさまざまな視点を獲得能力ともいえる。また、フレイレが記しているように、ディスカバー、何でもないもののようにみえる事象の中に、価値あるものを発見する力を養うことでしょう。深く考えさせることに気付かせることです。

課題は2045年日本はAIに凌駕される時代が来るという。しかし、考えていただきたい。ラスコーの洞窟絵をご存知ですか?全くの暗闇の中に芸術を描いたことを、このような人間の特質を重視した教育を考えるべきなのでしょう。

(編集はグローバル人財リサーチ斉藤宏による報告です。それぞれのご発言についてはご確認をいただきました。※JICA公式講評ではありません。)