ファシリテーター養成コース「開発と地球環境」の講座でサンゴのモニタリングを題材にしました



社会人中心の多様な受講生が集まっています
社会人中心の多様な受講生が集まっています
普通の学生さんたちとは違って真剣な目線を感じます
普通の学生さんたちとは違って真剣な目線を感じます
ランダムなグループに分かれて討論します。
ランダムなグループに分かれて討論します。
講義の内容シートをしっかり点検しています。
講義の内容シートをしっかり点検しています。
地球の絵を真ん中にファシリテーショングラフィックを使ったグループ
地球の絵を真ん中にファシリテーショングラフィックを使ったグループ
カードのまとめ方も手際がとてもよかった
カードのまとめ方も手際がとてもよかった
整理のしかたでグループごとの特徴が理解できます
整理のしかたでグループごとの特徴が理解できます
カードの並べ方のデザインがとても良い、それだって表現の一つだ
カードの並べ方のデザインがとても良い、それだって表現の一つだ
説明役をやるかたも自発的にすぐ決まっていきました
説明役をやるかたも自発的にすぐ決まっていきました
自分たちの発表だけでなく他のグループの発表もメモを取りながら聴き手に回っています。
自分たちの発表だけでなく他のグループの発表もメモを取りながら聴き手に回っています。
3時間目と称する反省会、ここで、補足するさまざまなエピソードが飛び交い理解は定着します。
3時間目と称する反省会、ここで、補足するさまざまなエピソードが飛び交い理解は定着します。

国際開発教育 ファシリテーター養成コース 「開発と環境」報告
ファシリテーター養成講習も7月9日の講座で第11講となり、1年のコースの1/3を終えたところで、受講生たちも慣れてきている感じでした。オープンカレッジの面白いところは、学生から50代社会人まで多様な人たちが集まっていることで、講義をするほうも緊張感を感じるだけでなくフイードバックする学びがあり手が抜けません。

・実際の自分の研究をテーマに
「開発と地球環境」のテーマですが、今回は、リアリティーを持たせるため、自分が研究しているテーマ、サンゴモニタリングをベースに、「サンゴモニタリングを通じて気候変動を考え行動を起こそう」という具体的なサブテーマを設定してスライドを作ってみました。昨年11月に日本サンゴ礁学会の査読論文として掲載されましたので、研究の動機や、サンゴを研究する意味や、理論や機材の紹介、そしてこの研究を日本の国際貢献として途上国で役立たせる運動論まで含めた実践的な講座を組み立ててみました。
ただ、受講生のほとんどは文系ということで、専門的な部分はなるべくあっさりと説明し、サンゴと人間生活などの関わりの部分を深く説明しました。

・サンゴ礁の主役はサンゴ
最初は、サンゴ礁の海の主役はトロピカルな魚だと思っていた皆さんも、トロピカルな魚こそ飾りで、主役はサンゴだったんだという気付きを与えることができたと思います。
サンゴは不思議な動物で、共生している植物プランクトンの共生藻である褐虫藻から栄養のほとんどをもらい生きています。最近の研究では五億年前から、現在の種に限っても二億五千万年前からサンゴ礁を作ってきて、地球の二酸化炭素を炭酸カルシウムにして閉じ込めてきました。
健全なサンゴ礁は海面上昇があっても海面に対して成長し陸地を守ってきました。
サンゴ礁を取り巻く海は本来、透明で養分が少なく魚にとっては良い環境ではありません。しかし褐虫藻が作った養分でサンゴが使わなかったものは、排出されそこに豊かな生態系が育まれます。さらに、サンゴ礁の美しさはダイバーを魅了し観光資源として大きな価値を見出すのです。そのサンゴが生育できる環境保全は地球全体の課題なのです。

・サンゴをモニタリングできれば過度な開発をストップできる
しかし、サンゴが主に生育する地域は赤道周辺の開発途上国や小島嶼開発国です。美しい景観を持つものの、他の資源も少なく、インフラすら脆弱な地域で、開発は進みますが、サンゴの保全にまで手が回らないというのが現実です。
しかし、サンゴのモニタリングを早くから続けておけば、サンゴの変化をいち早く捉える事ができ、過度な開発にストップをかけることもできるのです。
サンゴのモニタリングには、衛星を利用したハイパースペクトルによるリモートセンシングにより宇宙から観測する方法やクロロフィルの光合成活性によりサンゴが発する蛍光を測定した、パルス変調蛍光測定器などの測定法が用いられてきましたが、観測機器は数百万円はかかる高価な機材です。なんとか廉価な機材で測定はできないのかと研究を続けてきました。

・クロロフィルの光学的な検出でモニタリングが可能
その結果、前にも書いたようにサンゴは共生藻から栄養のほとんどをもらって生活しているため、共生藻の量や分布がサンゴの健康度に大きくかかわることが分かり、この、共生藻のもつクロロフィルを光学的に検出してやれば、サンゴの健康度をモニタリングすることができることがわかったのです。
クロロフィルの検出はリモートセンシングにも使われる反射スペクトルを計算すれば可能で、水中でサンゴから反射する光から、フィルターを用い青色域の光と近赤外域の光を画像として取り出し、それぞれの画像の対応する画素を演算してやることでサンゴのモニタリングを数値化することに成功しました。
従来、機材を使わないモニタリング方法として、「リーフチェック」というプログラムでボランティアダイバーの参加によりサンゴの色を肉眼で見て判断するカラーチャートを用いた調査は費用はかからないものの、サンゴは緑や紫などの固有の色素も持っており色の見分けに難しさを伴うほか客観性に欠ける側面があったのですが、今回開発した機材においては、サンゴのもっている色素が違った場合でも、フィルターでターゲットとする色だけを取り出すため、サンゴの色素の影響を受けずに、はるかに客観的なデータを収集できるようになったのです。

・教材「共に生きるをデザインするグローバル教育」を使えばサンゴのファシリテーションができる
今回のテーマでは、自身のリアルな研究の内容を含めてサンゴのことを考えてもらいましたが、受講された方が、この展開のままで実施するのは少し厳しいかもしれません。
しかし、御安心ください。サンゴに関してのモニタリングの新しいデータを日々取り出すサイトがあるのです。
それは、このWEBでも紹介しています、グローバル教育教材「共に生きるをデザインするグローバル教育」の中、p76-p80で「サンゴと海洋環境と人間の関係」を考える教材として編集してあります。そこでは、アメリカの海洋大気庁NOAAが公開している「Coral ReeF Watch Satelite Monitoring」のページを使いWEBを使い世界の今のサンゴ状態を見ることができるとともに、データのダウンロードもできるようになっています。このサイトを使ったファシリテーションが誰でもできるようになっていますので使われると便利かと思います。
サンゴモニタリングを使ったファシリテーションは、世界の環境を考える上でとても有意義なテーマとなるでしょう。

・4グループとも同じディスカッションテーマを選んだ
さて、拓大の講座の展開は前半で多様な専門家からのテーマを聴き、それをグループディスカッションをしながら、グループのファシリテーターがまとめ他のグループの前で発表します。
テーマは講師が3つのテーマを提示しました。
A)サンゴが人間にとって役立っていることをグループでまとめよう
B)サンゴモニタリングをどのように普及したらよいか考えよう
C)進行しつつある気候変動に市民としてどのように対処するか考えよう
の3つでした。ここで面白いことがおこりました。
私としては、次のステップとしてB)のテーマへの挑戦を期待していたのですが、4つのグループは一様にC)のテーマを選びました。
なぜか理由を聞くと、A)は説明のなかにかなりでてしまったので発展がなく面白くない。B)はモニタリングの普及となると技術的なこともでて、文系が多いメンバーとしては広がりを作れない。それに対して、C)はサンゴだけのことではなくリサイクルや、エコ生活や、森林伐採や、あらゆることに汎用的に広げられるので選んだということでした。

確かに、サンゴについてとなると専門的な知識が必要になるため、汎用的に拡大できるテーマを選ぶ方向になったのは理解できます。しかしどうでしょう、汎用性のある課題は、優等生的な回答でまとめてしまい、本質に迫っていかない場合が多いのではないでしょうか。私たちに次々とつきつけられる課題はもっとシビアではないでしょうか。

例えばB)のテーマを考えていくと「すべてのステークフォルダー」を考えなくてはなりません。サンゴを美しいと考える観光客やダイバーと、魚をとる漁場と考える漁師とは対立する意見を解決しなくてはならないでしょう。モニタリングを進めていくと開発業者との軋轢も出てくるでしょう。もし、現地でモニタリングプロジェクトを実施する場合、賛成意見ばかりではないのです。それをどのように理解して実施にこぎつけるか、その過程を動かしていくのがファシリテーターとしての役目ではないでしょうか。

ただ、今回皆さんが選んだC)のテーマに関しての発表でしたが、地球への関心を持つ必要がある。研究者への支援が必要だ。サンゴをもっと知るためにに触れる施設や体験ツアーが必要だ。気候変動に対して、自分たちの当事者意識が低いことがわかった。ムーブメントを起こす必要がある。リサイクルは本当に環境のためになっているのか等、次への発展を期待できる発表が多かったところは深さがあり、さすがに養成コースによる力が高まっていると感じました。
グループディスカッションの運営は、さすがに1/3の講座を終わっているだけあり、各グループの役割分担や意見なども臆せず次々に活発に出て、聴いていて楽しめました。

・3時間目が人間関係を深くする
最後は、場所を移して3時間目と称する反省会ですが、これは盛り上がりました。講座では、時計を見ながら話していますので、なかなか反応を拾えないのですが、反省会で、経歴を聴きその人を知るとさらに線がつながり、人間関係ができるわけで。この3時間目とても重要な時間だと思いました。
斉藤宏