セブ島でのサンゴモニタリング

2016年エルニーニョの時に起こった世界的な白化の時のフイリッピンでの様子(philippine Coral Bleaching Watch 2016年の報告より参照)
ラニーニャ発生時の9~11月(気象庁)
ラニーニャ発生時の12月~2月の天候特徴(気象庁)
海水表面温度(SST)2017年6月15日(NOAA)
海水表面温度(SST)2017年7月15日(NOAA)
海水表面温度(SST)2017年8月15日(NOAA)
海水表面温度(SST)2017年9月15日(NOAA)
海水表面温度(SST)2017年10月15日(NOAA)
海水表面温度(SST)2017年11月15日(NOAA)
海水表面温度分布(SST)2017年12月15日(NOAA)
塊状のナガレサンゴの仲間、上部が白化
塊状キクメイシの仲間 全体が白化している
キクメイシのマクロ写真
ナガレサンゴのマクロ写真
やや白化した塊状のナガレサンゴの仲間
サンゴの植生指標で演算画像化したもの、健康度に応じて明るい色から暗い色になるため、健康度が見分けやすくなる。
健康なミドリイシサンゴの仲間
健康なミドリイシサンゴの植生指標画像



フイリッピン、セブ島でのサンゴモニタリングを行ってきました。

2016年に1987年に起こった白化イベントが再び起こりました。

その時のフイリッピンでの白化はphilippine Coral Bleaching Watch 2016のポスターにカウントしてありますが大きな被害が出ていました。そのあとどうなったのかを確認することもあり、NOAA(アメリカ大気気象庁)による衛星からのSST(海水表面温度)測定をもとに、現地で実際にサンゴを観察し、この測定が活用できるかも確認することも目的でした。

セブでは、12月後半から2018年1月の間、モアールボアールとオスロブの2か所で観察しました。

2017年は、気象現象ではラニーニャ現象が起こっており、直近では、台風が接近通過して雨が多く、海水温は低く、結果としては大規模な白化はありませんでした。

気象庁の図、ラニャーニャ発生時の世界的な気温の統計での状態を見るとわかるのですが、12月~2月はフイリッピンは水色のエリア低温で緑色は多雨のエリアで雨が多く低温になっていることがわかります。今回も観察の期間台風の影響もあって雨が多く、地元の人たちに言わせると体感的に寒いと言っていました。

NOAAのSSTの分布図をみてください。6月から12月までの図を表示してあります。8月にはフイリピンも濃いオレンジ色で30度を超える表面温度があったのですが、月が替わるたびに温度は薄いオレンジ色になり下がっていく様子がわかります。現在は30度を超える部分はパプアニューギニアのほうに南下しています。

通常サンゴの白化は30度という温度が敷居値となり、これを超える温度ストレスが長期間続くと、サンゴが共生している褐虫藻を放出するというのが定説です。最近の研究では、放出するのではなく、体内で凝縮したり分解されたりして色が抜けるとの報告も出てきました。どちらの報告にせよ、褐虫藻の茶色の濃度が減少するためサンゴの石灰質の白い肌が目立つようになり、最後は白化という現象になるわけです。

サンゴは石灰質の殻の中に生きており、動きませんが動物なので、通常ポリープをだしプランクトンを捕食して栄養を取っています。しかし、実は共生している褐虫藻から受け取る栄養分が70%とか90%とかの研究もあるのです。つまり、ほとんどの栄養分は褐虫藻からもらっていることになり、サンゴの健康状態は共生している褐虫藻の状態を観察することで理解できることになります。

過去、大規模な白化現象が世界的に起こったのは1987年から1988年でWilkinsonが報告し世界的に知られることになりました。それが再び2015年から2016年にも起こりました。この両方の期間はエルニーニョ現象が発生した期間でもありました。2016年の沖縄でも、大規模な白化が報告されました。白化には最近の世界的な気候変動が影響していると考えられます。

褐虫藻ですが、大きさは直径10μmほどの渦鞭毛藻で茶色をしています。10μmですから顕微鏡で見ないとその粒は見えないのですが、数が1㎠あたり数十万から数百万もの高密度で共生していますので色はその密度により外部からでも確認できます。ただ、人間の目では多少の変化は比較できないので、よほど白化に近づいた状態で初めて、サンゴが弱っているとわかるのです。この場合、原因となったストレスが気候変動による海水温度上昇の場合などは、レスキューのための手の打ちようがありませんが、開発による泥の流入などの原因は声を上げることで止めることができます。モニタリングはそのために平常時から計測を行っていくことになるのです。

私の研究(水中リモートセンシング法によるサンゴ健康度季節変動の評価)ではこのモニタリングに水中で近赤外線を用いる方法でサンゴに共生している褐虫藻の可視化を行っていますが。今回はマクロ撮影ができるカメラによる評価も行ってみました。デジタルカメラの発達で、水中でも簡易に使えるマクロ撮影ができるようになりました。これは、写真を見てもらうとわかるのですが、接近することで拡大率は大きく、そのまま、データとして比較できるので、とても良い器材になると思いました。

サンゴモニタリングに関しては、サンゴが多く棲息する海域に存在する国々は開発途上国が多く、急ピッチな開発が進んでいます。ところが、港湾やインフラ、リゾートなどの開発が優先され、肝心な海洋の環境保全は二の次になっているのが実情です。そのような環境においても、サンゴモニタリングデータを蓄積していく必要があります。より自然な状態からモニタリングしていくことで変化が読み取れるからです。モニタリングは少しでも早くはじめ、データを蓄積していくことで大きな効果を発揮することになります。そのためには、開発途上国でも、早急に始められるような、低コストで、簡易な方法でデータを取得していくことが必要になるのです。変化をとらえた証拠があれば、その国の環境行政を動かし、環境保全が優先的に考慮されることも考えられます。

世界の海洋はつながり一つであることを考えれば、開発途上国での環境保全の活動は人類そのものにフイードバックすると考えるとその意味は世界が持続可能な開発を続けていくためにも重要な課題であると考えられます。

撮影したモアールボアールの地形は裾礁で浅いサンゴ礁の先はそのままドロップオフになっていて、リーフがあり陸との間にラグーンがある地形ではないため海水が長く滞留することがなく、ドロップオフの深い部分からの海水が入ってくるためよほどの高温にならない限り30度を超えた状態が続くことはないと思えました。それでも、2mほどの深さの塊状ハマサンゴや塊状のキクメイシの種類では上部が白化しているものが見られました。

白化している場所をマクロ撮影で拡大してとった写真もごらんください。キクメイシの仲間とナガレサンゴの仲間を水中でマクロで撮影すると、肉眼でも茶色の部分と、白い石灰質が露出している部分がはっきりと確認できます。最大まで拡大したものでは、褐虫藻が残っている場所と、白く白化してしまっている部分の区分けが明確にわかります。サンゴの状態が手に取るようにデータ化できるのはとても便利な器材です。

philippine Coral Bleaching Watchによると2016年のフイリッピンも大規模な白化が起こっていたことが報告されています。その時と比べると数からいってもかなり復活してきていると感じました。白化も症状が進むと完全に白色になりますが、この写真からもわかるように斑状や部分的な白化であることが理解できます。

今回は、実験的に、撮影した可視画像ファイルを青と赤に色分解し、その二つのファイルで簡易的な画素計算を行ってみました。通常リモートセンシングでは、二つの波長(赤と近赤外線)の画像を演算し、植生指標を算出するのですが、今回は、通常のデジタルカメラで撮ったままの画像を使ってみました。この手法の問題点は、民生カメラのレンズには通常、人の目で見た光域を表現するため、素子は赤外を感知しますが赤外線をカットするフイルターを入れて画像が自然に見えるように調整してあります。したがって、反射率が大きい近赤外部分が記録できないため、植生の計算における、反射率の違いを利用する演算の感度が悪くなります。それでも青色と比べると赤色の反射は大きいため演算ができることになります。しかし、反射率には差がありますので、演算の感度を上げれば、クロロフイルを多く持つ部分を表示できるはずです。実際に簡易的に画素演算をしてみた画像を表示します。色を疑似カラーで表現できるため、健康な部分と弱っている部分の見分けができるようになるため、モニタリング結果が可視化されることになるのです。まだまだ研究の途中ですが、民生用の低価格な機材で数値化できるモニタリング手法の方向性がつかめました。また、NOAAのSST画像を使うと世界のどこでサンゴにとっての危機が起こっているか一目でわかることから、これを見せることで、教室で、ネットを使いサンゴに興味を持ってもらえることができるため、環境をテーマとしたアクティブラーニングやファシリテーションに活用できると思いました。今後も研究を進める中で、NOAAのSST画像の活用は広げていきたいと思いました。(斉藤宏)

きれいなバラサンゴ
一面に育つ枝サンゴの仲間
きれいなサンゴ礁を泳ぎ回るウミガメ

 

 

 

 

 

 

 

最大の魚類と言われるジンベイザメにも出会えます

 

 



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