「グローバル教育コンクール2015」においてJICA地球ひろば所長賞を受賞された夏目先生からの投稿



今年も、グローバル教育コンクールの審査員をやらせていただき、感動的な作品に出合わせていただきました。2016年2月21日市ヶ谷のJICA地球ひろばで2015年の授賞式がおこなわれました。授賞式の様子は以前のブログでも報告させていただきました。 今回は写真部門において、特に印象が深かった作品の作者である夏目先生から撮影の時の様子を含めバックヤードの投稿をいただきました。グローバル教育コンクールの素晴らしさの一つは、このように作品をグローバル教育の場で自由に使えることにあります。コンクールの成果物は、JICAのサイトからダウンロードでき、そのまま日本各地でグローバル教育のツールとなることを考えれば、まさに持続可能なシステムを持ったコンクールといえます。そして、何よりも作品を応募した本人が現地から学び、グローバルな体験を積み変容したということなのです。この方たちも、作品と同様グローバル教育を広げていく力を持っていることなのです。(斉藤)

夏目先生は教員から協力隊員に参加しました。先生にお聞きすると、「参加して変わったことはたくさんありますが、一つはいろんなことを受け入れられるようになったことだと思います。文化の違い、言葉の違い、仕事に対する考え方の違い・・自分の思うようにいかないことの方が多かったですが、そんなちがいや多様性を受け入れて、できることを1つずつやってきたという感じです。 それができるようになったのは、やはり現地の人と時間も思いも共有することを大切にしたからではないかと考えています。待つ時間も長く自分一人でやってしまったほうが早いと感じることもありましたがものごとが進まない時間も含めて一緒にいることで、お互いの理解が進むのだと思います。改めて思うのは、ニカラグアの人たちに励まされ、支えられたなということです。派遣前に、「固有名詞の出会いを」という言葉を聞いたのですが、外国人、日本人、ではなく「カヨコ」として受け入れてもらえたこと、また、現地の人たちとそのような関係を築けたことに感謝だなと思います。」と言われます。

夏目佳代子 「ピカピカの靴と僕の手」ニカラグア(ヌエバギネア市)作品をご覧ください。

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協力隊で活動したニカラグアに赴任した当初、驚いたことの1つは靴磨きや食べ物を売るなど、働く子どもたちがたくさんいることでした。そのような子どもたちがいることは、本を読んだり聞いたりして予想はしていましたが、実際に子どもたちの姿を見ると考えさせられることがたくさんありました。

顔見知りになると、道端で出会った時に声をかけてくれる子もいました。街を歩くと、名前を呼んであいさつしてくれたり、いつも元気でたくましく生活している姿に、励まされることがたくさんありました。アントニオ(*写真の靴磨きの少年です)もそんな子の1人です。いつもお兄ちゃんと一緒に、靴磨きの道具を背負って、朝早くから市役所の前にいました。他の子どもたちと比べると、ちょっとシャイなところもあって言葉は多くないですが、道ですれ違って目が合うと、あいさつしてくれました。

赴任して1年ほど経ったある日、配属先の青少年の家で活動していたところ、アントニオが通りかかりました。スタッフが彼に靴磨きをお願いしたので、どちらにもお願いして写真を撮らせてもらったのがこの作品です。靴を磨いている様子を近くで最初から最後までずっと見たのは初めてだったかもしれません。それまでにも町で働いている子どもたちを見かけて、遠くから写真を撮ることはありましたが、近くでずっと見ているということはありませんでした。子どもたちの姿を伝えたいという思いと、靴磨きをしている子どもの立場、靴を磨いてもらっている大人の立場を考えると、いきなり写真を撮っても大丈夫だろうかという思いとがあったからです。

アントニオの仕事を見ていると、手で靴墨を丁寧に塗ったり、布で何回も丁寧に磨いたりと、遠くから見ていたのでは分からなかった、真剣さ、誠実さが伝わってきました。ふとアントニオの足元を見ると、靴はボロボロ、そして靴を磨き終わった後、手を洗うこともなく真っ黒なまま。手にしたのはわずか30円くらい。(現地で、ペットボトル1本買えるか、買えないかくらい)ピカピカになった靴と、アントニオのボロボロの靴と真っ黒な手を見て、複雑な気持ちでした。靴磨きをお願いしたスタッフにとっても、アントニオにとっても、ごく日常生活の一コマだったかもしれません。実際、スタッフは威圧的な態度でアントニオに指示する、という訳ではなかったし、お礼を言ってお金を払っていました。アントニオにも、児童労働をさせられている、というような意識はなかったかもしれません。でも、彼が自分の靴を構わずに、誰かの靴をピカピカにする、ということにずっと違和感が残りました。

アントニオのように働いている子どもたちを見ると、学校に行っているのか、家でどんな生活をしているのだろうかといろいろなことを思いました。彼らのために何かできないかと思いながらも何ができるのか、どうするのがよいのか、自分の中でも答えが出ず、具体的に何かできたわけではありません。彼らに「学校に行った方がいいよ。」と言っても、その日家族が生活できなかったら、学校に行くことより働くことが優先的になってしまうのは当然のようにも思えます。

働いている子どもたちに話を聞くと、「働くのは家族を助けるため。」で、午前中に学校に行って午後働く子、学校には行っていない子、さまざまでした。学校に行けない、ノートが買えない、学校を中退しないといけない、など、厳しい環境の中で生活している子どもたちですが、「好きなことは?」と聞くと、「働くこと」という答えが返ってきたり、「家族みんな生活していくためには働かないとね。」とさらっと言う子どもたちもいて、子どもたちにとって、働くことは家族の一員として当たり前に感じているのかもしれません。将来の夢も聞くと、みんな堂々と答えました。いつも元気な子どもたちの姿に励まされることもたくさんありました。自分に誇りをもって仕事をしていたり、家族を思って働いていたり、たくましく生きる子どもたちの姿を伝えたい。そして、「かわいそう」、「日本に生まれてよかった」、という思いで終わるのではなく、彼らの姿から私たちも学ぶことがある、そんな思いで作品を応募しました。

帰国後、生徒たちに、ニカラグアのことや子どもたちのことについて、参加型の手法を使いながら伝えてきました。元気いっぱいの子どもたちの写真とともに、アントニオの他にも、2年前のグローバル教育コンクールで佳作をいただいた、パン屋のノーリンの話、電気も水もない農村で家族と暮らす子どもたちの話、など話しました。写真やエピソードを通して、生徒たちから「家族を大切に過ごしている」「ものがなくても知恵を出し合って暮らしている」「生活は大変そうだけど、楽しそう、幸せそう」「いつか行ってみたい。」などの感想が返ってきました。直接そのようなことを言わなくても、生徒たちが自分でそのようなことに気づいたことをうれしく感じました。

私は、ニカラグアでの滞在中、「Hola! desde Nicaragua」という通信を書いて日本の学校や友人にメールで送っていました。ニカラグアの文化について、自分の活動について、食べ物について、そして子どもたちのことについて、などなど伝えたいことがたくさんあったのですが、考えていたのは、まず、ニカラグアのよいところを知ってもらいたいということ。「発展途上国」と聞くと、「かわいそう」「治安が悪い」など、どちらかというとネガティブなイメージをもつ人もいます。でも、実際に暮らしてみると、ニカラグアのよさはたくさんあり、人々の考え方や生き方から学ぶこともたくさんあり、それを通信を通して伝えました。(もちろん、もう!と怒れたり、はあ・・とため息をつくこともたくさんありましたが)そして、ニカラグアのよさを伝えた上で、国が抱える課題や、人々が暮らす厳しい環境についても通信で書きました。働いている子どもたちについても、通信や、帰国後に直接話す中で伝えたいとずっと考えていました。もしよかったら、通信もご覧ください。

ぎふ国際協力大使からの便り No1〜No57

2011年5月〜2013年4月までの「¡Hola! desde Nicaragua!」が私の担当です。(*岐阜県出身の協力隊員すべてがぎふ国際協力大使となっており、他の隊員の便りも一緒に入っています。)

http://www.pref.gifu.lg.jp/sangyo/kokusai/kokusai-koryu/c11129/index_25014.html

※アントニオのことは、No53に書いてあります。

※子どもたちの夢のインタビューについては、No57に書いてあります。

(投稿 夏目佳代子 編集 斉藤宏)